その堀の麻雀を、固唾を呑んで見守っていたチームメイトがいた。
岡田紗佳はこの日の初戦を戦い、4着だった。
「私が、ラスを引いたから──」
岡田はそう思って、堀の戦いぶりを見守っていた。
大体堀の切りだって、まるで通っていない危険牌だ。
マンツモのアガった形から、イーシャンテンに戻す無スジのトイツ落とし。
当たればどう評価されるかも分からない、視聴者の多くが見たこともないような打牌だろう。
一貫性がない、それなら最初からを切るな、と思う人もいるだろう。
その是非はわからない。麻雀では一貫性も必要だし、柔軟性も必要だ。
最初の形では損切りの3着も現実的だし、テンパイ取りをしておけば他家のアンカンなどで条件変化もある。
ソーズの上目の変化に対応できる以上、先に切りをするべきかは微妙なラインだ。
アンコの形が、堀を苦しませたのだ。
そしてそれを、誰よりも悲痛な気持ちで見ていたのは、岡田であろう。
9巡目。を引いてリャンメンになったが、通っているの連打。
12巡目、伊達が当たり牌であるをツモ切るがスルー。
目もくれず手を伸ばす。
倍満に賭ける、一貫性だ。
ツモアガリはあったが、これも裏裏なければマンガンまで。
ソーズを、ソーズを引いてくれ──。
堀と、岡田と、多くの人たちが願ったのかもしれない。
それこそサクラナイツのファンでも何でもない、ただの傍観者でも。
それくらい岡田の、チームの思いを乗せた、堀の麻雀には鬼気迫るものがあった。
何度も言うが、これは敵のリーチ下での麻雀なのだ。
そして、ようやく辿り着いた15巡目。
伊達のアガリはなかったものの、ここまで7巡もかかってしまった。
堀がツモったのは、ドラの。
メンホン白ドラドラ、待ち確定ハネマン。
このとき伊達の待ちはもう山になく、堀の待ちはが2枚だけ。
二人合わせて4回のめくり合いチャンスが残されている。
ただ堀はここでリーチ棒を出すと伊達を下回り、前述のように流局するとラスだ。
リーチすると7本折れ。
一発か裏1枚、ツモなら倍満の単独トップ。
堀が振り絞ってその声を発する。
岡田は祈ったであろう。このリーチを、アガリを。
自身が不甲斐なかったと、強くなりたいと──。
岡田はこの日を振り返る。
それでも、結末は残酷だった。
堀が3着拒否のラス落ちの結果を一身に受け止める。
批判や中傷の絶えない殺伐としたこの世界で、
リーチを受けながらも三度あった3着のアガリ機会──、
いや、最後のリーチ棒の降着を入れたら四度の機会をかなぐり捨てて投じた賭けの代償は、決して安くはなかっただろう。
そしてそれを見ていた岡田は、どれだけ身を切られる思いだっただろう。
サクラナイツは、この日連続のラス。
そして後日木曜の試合でも大きな敗北を喫し、チームは絶望的な状況になる。
ただこれもそこまでのマイナスになっていなかった場合、
堀の選択が実って倍満ツモの単独トップを果たしていたなら、
チームはどんなに楽な位置になっていたか。
3着で本当によかったと──、次に任せるチームメイトに課す条件として言えただろうか。
堀が与えられた手牌をその瞬間、その局面で最大限生かそうとしたこと、
岡田のために、チームのために。
この日の岡田の祈りと堀の信念のことを、どうか多くの方に、
覚えておいて欲しい。