モニターの中には、知った顔が並んでいる。中にはかつて酒を飲んだり、アホみたいな遊びを共にしたやつもいる。
年齢も性別もバラバラな彼らは、堂々と全身にスポットライトを──それでも少し緊張した面持ちで──浴びていた。
おれはそれを、薄暗いバーの片隅から眺めている。他に客はいない、残り少なくなったグラスの中身はジャックダニエルのロック──などと書くと少しかっこいいみたいだけれど、なんのことはないマヌケ面下げて、惚けたように画面を眺めているだけである。
そのとき、である。
あるいは──。
麻雀プロの世界から立つ鳥後を濁しまくって逃げ出して以来、ついぞ抱いたことのなかった感情に自分で驚きつつ、それをグラスに残ったジャックダニエルと一緒に喉の奥に流し込んで、しかしやっぱり可笑しくなって少し笑ってしまう。
「なんか言った?」マスターがこちらを見ることもなく聞く。
「いやなにも…あ、おかわりくれ」
マスターが妙にのったりとした動作で、グラスを下げていくのを見る。
その日の昼間は、歌舞伎町の端っこで東風戦を打っていた。客は金持ちの中高年が多く、総じて弱かった。彼らは今の麻雀プロなど一人も知らないだろう。、亡くなった小島武夫プロなら知っているかもしれない。少し寂しくもあるが、まあ世間とはそんなものだ。インターネットもSNSも無縁な世界は、まだまだ広い。
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長村大…フリー雀荘で麻雀を打ち、終わるとバーに飲みにいく日常を繰り返す44歳の男。第11期麻雀最強位。
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