だから自分は、闇でいい。
南4局1本場。ここからが、白雪の最後の試練だった。
先にテンパイを入れたのは千羽。
3副露して単騎テンパイにとると。
これが鴨神から零れる。
終局か……に思えたが。
アガらない……!
見逃し。鴨神からのアガリは、アトラスを3位にしてしまう。
あくまで、アトラスを落とす選択。
その後、発単騎に変えていた千羽は、これをツモる。
が、これもツモ切り。
徹底している。親被りでも白雪はラスにはならない。
「ここは徹底して、アトラス包囲網でいこう」
「にゅうにゅうがアガってくれる分には、それでいいからね」
麻雀の光と闇の頂上決戦は、さながら代理戦争の様相を呈していた。
この局は咲乃と鴨神の当たり牌を吸収し続けた白雪が執念のアガリを見せ、1000オール。
長い長いオーラスは、2本場へ。
先制テンパイは白雪。
そしてそれに呼応するように、咲乃もテンパイ。
これをアガれば、最高スコア賞をチームに持ち帰ることができる。
笑顔と、タイトルを持ち帰りたい。咲乃の想いのこもった打牌が伝わってくる。
しかしそうはさせたくないのが、千羽。
千羽がここでテンパイ。
アガるなら、切りのように見える。
は咲乃の当たり牌だ。
監督応援配信でも、多井が「これで放銃でもこが個人賞だ」と言っていたが。
ヘラクレス監督の松本は「いやこれ千羽先生止めるんじゃない」と、発言。
選手のことを慮り、理解している監督たちもまた、この半年で絆を育んだ証。
その言葉通り、千羽の選択はを切っての単騎テンパイ。放銃回避。
そしてこれに、鴨神がチー。
千羽はどうしても鴨神にアガってほしい。それがチーム優勝に少しでも近づくとわかっているから。
14巡目、既に手牌を壊した千羽が、鴨神の打に反応してなんと打。
鴨神の待ちはと。掠っている。
確実に差し込みに行く体制。
そして千羽の手の中には、が、ある。次に選ばれるのは、恐らく――。
もはや1巡の猶予もない。このままオリていれば、千羽は間もなく鴨神へ差し込み、アトラスを4位にするだろう。
白雪は、3900までなら差し込める。
この時点で、咲乃の手牌が5200以上無い保証はない。
だから白雪もここまでは差し込まなかった。
けれど、覚悟を決めた。
この局の始め、白雪は言った。
「この10倍打っていたい」
「好きに、打ちたい」
視聴者も、思ったはずだ。
まだ見たい。
この夢のような時間を、もっと――。