恐ろしいゲームだと、私も思う。
白雪にここまで非はない。ゼロだと言ってもいい。
それでもここまで点棒が削られ、圧倒的ラス目に立たされてしまう。
今年の神域リーグの白雪を象徴するような半荘。
しかし、白雪の目は、心は折れてなどいなかった。
「さーここを流す。ここを流せば、俺がほぼほぼラスで確定する代わりに、もこさんのトップがほぼ確定する」
「んでもこさんがトップとってくれれば、こんだけボコられてても、アトラスのトップは近づく」
……なんという打ち手だろうか。
悔しくないはずがない。トップをとりたくないはずがない。
この神域リーグで、Aランクとして指名されて、ここまで一度もトップがとれてなくて。
……悔しくないわけがないのに。
それでも耐えている、必死に堪えている。
チームが、笑って終われるならと。
7巡目、トップとタイトルを持ち帰るためにひた走る咲乃からリーチを受ける。
直後、親の鴨神からリーチ。
一瞬にして、またしても白雪は窮地に立たされた。
一つ、大きく息を吐いた。
今切られたばかりのに、一度カーソルを合わせてから。
白雪は、長い思考に沈む。
少し、間があって。
「かけていい?」
小さく、そう呟いた。
は、咲乃に相当危ない牌。
リーチ宣言牌のスジは、無スジと大して変わらない放銃率を誇る危険牌。
そして咲乃の河は、白雪の目からかなりカンに見えていた。
だから、「差し込む」。
自分の点棒を失ったっていい。
代わりに、「チーム優勝」をもらうために。
を強く2回叩いた。
咲乃からロンの文字が浮かび上がった時。
「よっし……!」
満貫を放銃した白雪レイドは一人、歓喜した。
白雪の点数はハコ下に沈んだ。
身体はボロボロで、その華奢な体躯は、地べたに這いつくばっている。
それでも。
白雪は、ニヤリと笑ってみせた。
これを見て欲しい。
仮に白雪がでオリていた場合。
親の鴨神の一発目のツモは……アガリ牌の。一発ツモだった。
白雪には一巡の猶予すらなかった。
この身を削るカン差し込みが、最善の選択だったのだ。
麻雀にたらればはない。しかし雀魂というゲームはその後のツモを見ることができるところまで、残酷で、面白い。
そんな最善を尽くした白雪に、オーラス南4局の親番で勝負手が入る。
白雪はこれをダマ選択。
このままでも12000。が引ければ絶好だ。
これをなんと、目下一番の敵であるゼウス鴨神から捉える。
一撃で鴨神をまくってみせた。
「ただじゃ、転ばないよーん」
ボロボロになりながら、最後まで鴨神の足にしがみつく。
上へは行かせない。
自分はこれでいい。泥臭くていい。
光は、ルイスとメイカが、担ってくれているから。