【 #神域リーグ 最終節第30試合観戦記】君は知っているか? 優勝チームを陰から支え続けた 一人の雀士のことを【文 #後藤哲冶 】

恐ろしいゲームだと、私も思う。
白雪にここまで非はない。ゼロだと言ってもいい。
それでもここまで点棒が削られ、圧倒的ラス目に立たされてしまう。
今年の神域リーグの白雪を象徴するような半荘。

しかし、白雪の目は、心は折れてなどいなかった。

「さーここを流す。ここを流せば、俺がほぼほぼラスで確定する代わりに、もこさんのトップがほぼ確定する」
「んでもこさんがトップとってくれれば、こんだけボコられてても、アトラスのトップは近づく」

……なんという打ち手だろうか。
悔しくないはずがない。トップをとりたくないはずがない。
この神域リーグで、Aランクとして指名されて、ここまで一度もトップがとれてなくて。

……悔しくないわけがないのに。

それでも耐えている、必死に堪えている。
チームが、笑って終われるならと。

7巡目、トップとタイトルを持ち帰るためにひた走る咲乃からリーチを受ける。

直後、親の鴨神からリーチ。
一瞬にして、またしても白雪は窮地に立たされた。

一つ、大きく息を吐いた。
今切られたばかりの【3ピン】に、一度カーソルを合わせてから。

白雪は、長い思考に沈む。
少し、間があって。

「かけていい?」

小さく、そう呟いた。

【8マン】は、咲乃に相当危ない牌。
リーチ宣言牌のスジは、無スジと大して変わらない放銃率を誇る危険牌。
そして咲乃の河は、白雪の目からかなりカン【8マン】に見えていた。

だから、「差し込む」
自分の点棒を失ったっていい。

代わりに、「チーム優勝」をもらうために。

【8マン】を強く2回叩いた。

咲乃からロンの文字が浮かび上がった時。

「よっし……!」

満貫を放銃した白雪レイドは一人、歓喜した。

白雪の点数はハコ下に沈んだ。
身体はボロボロで、その華奢な体躯は、地べたに這いつくばっている。

それでも。

白雪は、ニヤリと笑ってみせた。

これを見て欲しい。
仮に白雪が【3ピン】でオリていた場合。
親の鴨神の一発目のツモは……アガリ牌の【6ソウ】。一発ツモだった。

白雪には一巡の猶予すらなかった。
この身を削るカン【8マン】差し込みが、最善の選択だったのだ。

麻雀にたらればはない。しかし雀魂というゲームはその後のツモを見ることができるところまで、残酷で、面白い。

そんな最善を尽くした白雪に、オーラス南4局の親番で勝負手が入る。
白雪はこれをダマ選択。
このままでも12000。【6ピン】が引ければ絶好だ。

これをなんと、目下一番の敵であるゼウス鴨神から捉える。

一撃で鴨神をまくってみせた。

「ただじゃ、転ばないよーん」

ボロボロになりながら、最後まで鴨神の足にしがみつく。
上へは行かせない。
自分はこれでいい。泥臭くていい。
光は、ルイスとメイカが、担ってくれているから。

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