「リーチ」
田本は、幸運を祈る権利を得た。
一つ鳴いていた大塚は、吉田のをチー。田本の一発とハイテイ手番を消す。手牌は7枚。いずれ来る吉田の攻めを考えると怖いが、それでも逆転の可能性を減らす行為はサボらない。すでに大塚は立ち直り、やるべきことを理解していた。
次巡、吉田テンパイ。
「リーチ」
吉田は、勝利をつかみ取る資格を得た。
宣言牌を、大塚がさらにチー。吉田の一発ツモ、田本の一発放銃を消す。手牌4枚、大塚はこれでしのぎ切らなければならない。
田本はツモれず。最終ツモ番、吉田は山に手を伸ばす前に、一つ大きく息をついた。
願いを込めても、ツモる牌は、ただそこにあるだけだった。
ハイテイ手番、大塚の手に両者への安パイはない。
大塚は2人のリーチが入る前に吉田のをチーしており、は吉田への現物だった。だが、田本に通る確証はない。リーチの時点で条件を満たす可能性があることは明白、放銃すればホウテイがつき、ハネ満の可能性は上がる。
間違えられない、最後の選択。
大塚は、を切った。
誰も、何も、言わなかった。
大塚は、勝った。
新野竜太。
田本英輔。
吉田昇平。
そして、勝った大塚翼。
無名の彼らの試合には、見せ場もミスもあった。しかしそれ以上に、彼らの一打一打に人生をも懸けるような闘牌には、心を打つものがあった。
トッププロではないかもしれない。
有名ではないかもしれない。
実力も人気も、まだまだかもしれない。
泥臭くて、見苦しくて、無様だったかもしれない。
けれども、そこには熱があった。
名声欲、勝利への執念、麻雀への愛情があった。
必死にもがく姿は、麻雀プロとして本当に美しかったと思う。
勝者は一人、でもきっと彼ら4人は、麻雀プロとしてかけがえのない財産を手にしたはずだ。将来、彼らが麻雀プロとして大きく成長したとき、きっとその根幹にはこの日の経験が息づいているに違いない。だからこの対局を見た方々には、彼らの今後を少しでも気にしていただけたなら幸いである。
大塚プロ、優勝おめでとうございます!
ファイナルでのさらなる躍進も期待しています。
さいたま市在住のフリーライター・麻雀ファン。2023年10月より株式会社竹書房所属。東京・飯田橋にあるセット雀荘「麻雀ロン」のオーナーである梶本琢程氏(麻雀解説者・Mリーグ審判)との縁をきっかけに、2019年から麻雀関連原稿の執筆を開始。「キンマweb」「近代麻雀」ではMリーグや麻雀最強戦の観戦記、取材・インタビュー記事などを多数手掛けている。渋谷ABEMAS・多井隆晴選手「必勝!麻雀実戦対局問題集」「麻雀無敗の手筋」「無敵の麻雀」、TEAM雷電・黒沢咲選手・U-NEXT Piratesの4選手の書籍構成やMリーグ公式ガイドブックの執筆協力など、多岐にわたって活動中。