しかしツモが効いてこない。もたついている間に宮下からタンヤオ仕掛けが入り、吉田がこのテンパイをダマテンに構えた。
全国から応援を受けている内藤が、卓内で全員を敵に回している状況である。
ここからsを切らずグッと我慢した打ち回しを見せるも、吉田の手元にが置かれ2000・4000。
南2局、親番の宮下が456三色のイーシャンテンとなる。
しかしを仕掛けた新野がツモ、500・1000。
東3局で親番のチャンス手を潰された新野が、お返しとばかりに宮下のチャンス手を潰した形となった。残り局数が少なくなった内藤も辛い。
南3局、吉田は親番である新野の安全牌枚数だけに注意しながら、隙を見てアガリに向かう。高打点でなければ、内藤、宮下には放銃しても構わないのである。
結果は、2つ仕掛けた吉田が300・500のツモアガリ。
オーラス。親番の吉田は伏せて終了のため、最終局である。
2着目の新野が、を仕掛けて前に出た。
新野は大学卒業後9年飲食店で社員として働き、その後7年麻雀店で働いている。いわゆる同世代のサラリーマンとは違った生き方を選んだ形だ。他3人と比べて年齢も若くはなく、タイトルを渇望する気持ちも並々ならぬものがある。
1000・2000条件の宮下、ハネツモ条件の内藤が、ヒタヒタと忍び寄る。1牌ずつ慎重に河に置く新野。吉田は初打からドラを並べ、勝負の行く末を静かに見守っている。
を引き入れ、カン待ちのテンパイを果たした新野。
直後に、宮下からリーチが入った。ツモ裏条件であるが、最終局でありもはや猶予が無い。
「チー」
新野が冷静にチーして食い伸ばし、熱いを勝負した。ここで勝ち上がらなければ、次にいつ呼んで貰えるかも分からない気持ちが、新野の打牌に熱を込める。
内藤も最後の力を振り絞って、ハネ満のイーシャンテンまで迫っていた。リーチの新野は歯を食いしばる。一打ごとにそれぞれの深呼吸が卓上に落ちた。そう、勝ちたい気持ちはみんな一緒なのだ。
最後は、勇気を出してを勝負した新野が舞い降り、吉田、新野の2人が勝ち上がりとなったのである。
4人の長い競技麻雀人生は、まだ始まったばかりだ。これからもっと有名になるまで、流すべき涙がきっと沢山ある。将来もっと有名な存在になった時、今日の1日はきっとかけがえの無い経験のひとつとなったはずである。これからが楽しみな4選手に、心からエールを送りたい。
元 日本プロ麻雀協会所属(2004年~2015年)。
会社に勤める傍ら、フリーの麻雀ライターとして数多くの観戦記やコラムを執筆。
Twitter:@ganbare_tetchin