全ての対局が終わり、3人が菅原を祝福する。
菅原は笑顔で、涙で、困り顔だった。
最終結果。
菅原と新井のポイント差は、わずか0.7。数字で見れば紙一重だが、その差はあまりにも大きかった。
4位に終わった内田。
厳しい戦いが続き、最後は条件がないなかで、菅原と新井の対決を見届ける役にまわった。しかし彼女は決して、ただの傍観者ではなかった。スムーズに打牌を続け、甘い牌を切らず鳴かせず振り込まず、あくまでも決着を当事者同士に委ねた。それは、並の雀力と精神力でできることではない。記事内で名前を挙げることは少なかったが、彼女もまた、この舞台の主役にふさわしい一人だったことを、改めて書き記しておきたい。
3位となった浅井。
のアシストに限らず、最後の親番が落ちてからの打ち回しにこそ、雀王たる彼の力が表れていたように思う。かねてからMリーグ入りへの情熱を公言し、タイトル獲得だけでなく、さまざまな形で活動を続けてきた男である。もしかしたら近い将来にMリーグ入りを果たしているかもしれないし、少なくともその資格は存分に見せつけた。
あと一歩、半歩、いや指先までかかっていたMリーガーの座を取り逃した心中はいかばかりか。しかし、それでも新井はいつものように笑顔で明るく話をしていた。対局中も明るく元気な発声、丁寧な所作は、最後まで乱れることがなかった。そして、強かった。こんなことを書いても気休めにもならないだろうが、本当に一人の麻雀プロとして理想的な存在だと思ったし、少なくとも自分は、いつか彼をMリーグで見てみたいと強く思った。
「これは序章」そう語るなら、いつか絶対に第2章を見せてくれ、新井啓文。
そんな3人を退けて菅原は優勝し、栄えあるMリーグ新規参入チームのメンバーとなる権利を勝ち取った。道中で見せた思いきりの良い手組みの数々、ギリギリの粘り、勝負強さ。麻雀を愛する彼女が、自分の全てを捧げて身につけた「菅原千瑛の麻雀」で勝ち取った勝利だった。
オーディション前に話を聞いたとき、彼女は「うれしさや悔しさ、応援していただける喜び、それらを全部乗せて麻雀を打ちたい」と語っていた。その言葉を体現していた菅原の姿に、見ている側の一人として感情を揺さぶられた。憧れ続けたMリーグの舞台でも、きっと彼女は困り顔で、ファンをドキドキさせてくれるのだろう。
一人の麻雀プロが、夢を叶えた日。
菅原千瑛プロ、おめでとうございます。
さいたま市在住のフリーライター・麻雀ファン。2023年10月より株式会社竹書房所属。東京・飯田橋にあるセット雀荘「麻雀ロン」のオーナーである梶本琢程氏(麻雀解説者・Mリーグ審判)との縁をきっかけに、2019年から麻雀関連原稿の執筆を開始。「キンマweb」「近代麻雀」ではMリーグや麻雀最強戦の観戦記、取材・インタビュー記事などを多数手掛けている。渋谷ABEMAS・多井隆晴選手「必勝!麻雀実戦対局問題集」「麻雀無敗の手筋」「無敵の麻雀」、TEAM雷電・黒沢咲選手・U-NEXT Piratesの4選手の書籍構成やMリーグ公式ガイドブックの執筆協力など、多岐にわたって活動中。