岡田紗佳と白鳥翔 情緒と実利の千点棒【須田良規のMリーグ2022-23セレクト・5月4日】

セミファイナルの最終日、その第1試合のオーラスは、

東家 二階堂亜樹 29600点
南家 白鳥翔     7000点
西家 伊達朱里紗 37200点
北家 岡田紗佳  26200点

現在3着目のKADOKAWAサクラナイツ・岡田はトップのKONAMI麻雀格闘倶楽部・伊達まで11000点差、マンツモでは現状1000点足りない。

この日サクラナイツの現実的な通過の可能性はほぼなく、
競技麻雀において、自身の勝ち上がり条件がなくなった場合の打ち方については、
共通の認識が定まっているわけ ではない。

他家の邪魔にならないように打つ──、というスタンスが求められることも往々にしてあるのだが、
現実には自身が下家に極端に絞ったために対面上家が有利になる状況なども起こり得るため、
空気に徹することが公平とは限らないのである。

この日の岡田は、勝負手はきちんと攻め、懸命にトップを狙って打った。

「応援して下さる方みんなに喜んでもらえるような麻雀を打ちたい」

Mリーガーになる前は、自分のためにしか打つことはなかった。
ファンの存在が彼女の意識を変え、自身の置かれたこの微妙な状況でのやるべきことを導いてくれた。

今日のMリーグという舞台なら、それがきっと良いのではないかと思う。
もちろん勝ち上がりの目的としてトップを狙うことは必然ではあったが、現実にはサクラナイツの敗退は確定的だ。
しかし、それでも一人でも多くのファンが喜んでくれるなら、そういう麻雀を見せるという行為には意味がある。

たとえば2戦目の内川幸太郎は、
最後の親番に2軒のテンパイを受けて16巡目に幕引きの撤退をした。

30万点とか40万点クラスが必要な最後の半荘。
競技としての厳密さから言えば、ここでオリてはいけない。
ここでオリるなら、この半荘でのここまでの頑張りは何だったのか、ということになる。

しかし──、今この巡目に来て無謀とも見える打牌は、多くの人にとって望ましい内容ではないと内川は判断したのであろう。

正直こういう競技とエンタメのバランスを選手に強いることは心苦しい。
様々なことと戦い続ける選手たちの葛藤は、私たちも知ってあげられたらいいと思う。

内川が引き際を選べたのは、初戦の岡田の麻雀があったからかもしれない。
岡田がファンの心を繋ぎ止める役割を、果たしてくれたのである。

岡田は7巡目にこのテンパイだった。
黙して打【4マン】
現状赤々、しかし前述のようにマンツモでは1000点足りない。

岡田の希望は誰かがリーチ棒を出すこと、そうすれば同点でトップになることができる。
そのためには、自身が先にリーチしないで、ダマテンで他家に自由に打ってもらう必要があった。

そしてこのとき、岡田と理由の根本は異なれど、目的の一致した選手がいた。

ダンラスの渋谷ABEMAS・白鳥、ドラ【中】を重ねての【4マン】【7マン】リーチである。

打点はリーチドラドラで、自身の着アップはまず考えてはいない。

EX風林火山・亜樹は岡田より3400点上の2着目であるため、万一亜樹から出たら3着に落とせる。
そしてツモれば素点を亜樹と伊達から削れる。

さらに何よりも白鳥が期待したのは、
自分がリーチ棒を出したことで岡田のトップ条件が緩和され、伊達の単独トップを潰せることであった。

つまりこれから行われるファイナルに向けて、
いやもうこの1戦もファイナルの1局として、
チーム優勝のために数字として積み重ねられることを選んだのである。

岡田と白鳥はお互いに、同じ展開と結末を語らずして望んでいたのだ。

そうして岡田が無論のツモ切りリーチ。

セミファイナル通過には影響がないが、岡田はファンが明日も頑張ろうと思ってくれるような結末を最後まで狙った。

白鳥は岡田の目標に沿って、決勝相手のポイントを少しでも削るためリーチ棒を1巡でも早く出そうと思っていた。

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