【百恵ちゃんのクズコラム】
VOL.33
沖縄
百恵ちゃんは沖縄が大好きだ。
出不精でめんどくさがりな百恵ちゃんだが、沖縄には数え切れないほど行っている。ちなみに百恵ちゃんの中での”数え切れないほど”とは大体5、6回くらいである。
沖縄に初めて行ったのは小学6年生の時だ。
地元である北海道滝川市と沖縄県名護市は姉妹都市を結んでいて毎年お互いに小学生6年生を30名ほどを送り込んでいた。夏は北海道勢が沖縄に、冬は沖縄勢が北海道に、となかなかいい企画だった。
百恵ちゃんは学校で配られた児童募集のチラシを見て絶対に行きたいと思った。これに行けばその間学校が休めると踏んだからだった。
事前に泊まりがけの研修などもあり参加費は決して安いものではなかったが、お母さんに正座してお願いすると誠意が伝わったのかすぐに承諾してくれた。
お母さんも百恵ちゃんの世話から離れてパチンコに行けると思ったのだろう。利害関係が一致し、百恵ちゃんは無事沖縄に行くこととなった。
一緒に行くこどもたちはお金持ちの子どもばかりだった。百恵ちゃんはそれまで知らなかったが滝川市にもお金持ちの家は存在していたのだ。
研修で仲良くなった子の家に遊びに行った時に庭師が木の手入れをしていたり車に冷蔵庫が付いていたりと衝撃的なものばかりを見せられ生活レベルの違いに驚いた。当時から性根が腐っていた百恵ちゃんは必死に悪いところを探したが、ひとつも見つけられなかった。
毎日白ワインを2本飲んでるお父さんのおかげで家の中が瓶だらけになっている我が家とピカピカの大きな家を比べて
「もしも生まれる家が違ったら……」
と考えたりもしたがマイちゃんの家の様に家が傾いて玄関が常に半開きになっている猫だらけの家よりはマシだな、と考えて平静を保った。
そんなお金持ちの子どもたちとの研修や旅行は思いのほか楽しかった。それまでお金持ちの子どもに出会ったことがなかった百恵ちゃんは
『お金持ちの子ども=性格が悪い』
と思っていたがストレスを受けずに育った子どもたちは優しい子どもに育つ、ということをこの時学んだ。
前日まで荷造りをしていなかったためバタバタしたりもしたがなんとか無事に出発した。心配すぎたのか沖縄までお母さんが付いてきてしまった子がいて百恵ちゃんは驚きのあまりずっとそのお母さんを観察していたので行きの記憶は他人の母親の記憶しかない。
生まれて初めて見た沖縄の海は本当に綺麗だった。
普段何を見ても綺麗とは思わなかった百恵ちゃんも沖縄の海には心を惹かれた。それまでおばあちゃんの家の近くにあるゴミと流木が大量に打ち上げられているドブの様な海しか見たことがなかったのも余計に百恵ちゃんをそう思わせたのだろう。
ただ、感動のあまり
「バスクリンをたくさん入れたみたいだね!」
と言ったのだがお金持ちの子どもたちには百恵ちゃんが何を言っているのかわからない様子だったのが少し辛かったのを覚えている。
そして沖縄旅行の日程の中には米軍基地の中に入るという斬新な企画があった。
正確に言えば米軍基地の中にあるビーチで遊ぶというものだった。ビーチなどそこら中にあるのになぜわざわざ検問をくぐって米軍基地のビーチを利用するのかはわからなかったが田舎の小学生にとってはなかなか刺激的であった。
「暴れん坊将軍」でしか見たことがなかった刺青を初めて見たのもこの時だった。軍人さんが腕に彫った『打須天』という刺青を指差し「マイネーム!ダスティン!」と話しかけてきたが百恵ちゃんにはどうしてもカッコイイとは思えずどんな反応をすればわからず困ったのを覚えている。
米軍基地では引率のおじさんが小学生相手に
「今日は楽しかったですって英語でなんて言うのか教えて欲しい…」
とお願いをしているのを見て、将来こんなふうになりたくないな、と思い英語の勉強を頑張ろうと心に誓った。が、お父さんが以前20万円で買った英会話教材に一回も手を付けずにただのゴミにした話を聞いてなんとなくやる気をなくし、以来英語の勉強はしていない。
米軍基地での異文化交流を経て沖縄旅行は2日間のホームステイ期間に入ることになる。
次回は6月11日(木)午前8時更新予定‼︎
【田渕家登場人物紹介】
・父 コージ:元陸上自衛隊幹部高卒ながら佐官まで登り詰めるも「髪型が奇抜すぎる」という理由で100年に1度あるかどうかの異動の内示取り消しをされた経験がある。現在は三度目の暖かな家庭を築いている。
・母 イクコ:美容師。美容室を自宅で開業するもパチンコにハマり開店休業状態を約20年続けた猛者。おそろしいほど料理が下手。ツーブロックにしたことがある。近況を知らせる連絡では年下のペンキ屋さんとお見合いをしたらしい。
・姉 タエ:無職。1度も定職に就いたことがなく家賃を滞納してはクビが回らなくなりお父さんに払ってもらいに帰ってく るお調子者。過去に大きな交通事故に遭いウン百万円もの保険金を手にするが全てホストクラブに費やした経験がある。
・エリー:田渕家の飼い犬。詐病のプロ。足をひきずったり弱ったふりをしては人間に甘やかしてもらう。動物病院で『至って健康』という診断をされるとそれまでの弱りっぷりを忘れ、凛々しい顔で帰ってくる。趣味は父の顔に噛みつくこと。オスだが思いつきでエリーと名付けられた。
・マイちゃん:母親同士が同じ美容師で仲が良く、物心がつく前から一緒にいた幼なじみ。かなりの美人だが偏差値は2くらいしかない。現在は3人の子供を産み働きながら育てているが一度も結婚したことはなく、更に子供たちは全員父親が違うという斬新なファミリーを築いている。そして最近ロシア人の子供を産んだばかり。
北海道出身。最高位戦日本プロ麻雀協会40期。座右の銘は「ビールは一日3リットルまで」。『近代麻雀』でも同コラムを連載中!