ラスを引いて帰ってきても、どれだけ落ち込んでいても、近藤は常に励ましてくれたのだ。
そして今、その時の借りを返す時がきた!
「ロン 12000!」
次の局、多井から会心の12000をもぎとった。
しかし、私はこのとき、一抹の不安を感じた。
優勝が現実に見えてきたからか、魚谷の感情が昂りすぎているのだ。
私の知る魚谷は、卓上で何が起ころうとも、麻雀中はしっかり集中していた。
そんな魚谷が、このアガリ以降、常に涙を浮かべ、手を震わせながら打っているのだ。
魚谷の立場になってみれば無理もない。
はたして、これだけチームやファンのために勝ちたいと思って打ったことは、これまでにあっただろうか?
はたして、これほどまでに勝ちたいと思った一半荘が、かつてあっただろうか?
私だったらとてもじゃないが平常心を保てない。
見ている多くの人も同じじゃないだろうか。
魚谷自身も(これはよくない)と思ったのだろう。
次局に入る際、昂ぶる自分を抑えつけるかのように、1つ大きく深呼吸して、配牌をとった。
このシーンを見ているだけで、胸が苦しくなる。
そんな中で、「平常心」が服を来て歩いているような男がいた。
第三の刺客Piratesの船長、小林剛だ。
ABEMASとフェニックスの直接対決のような雰囲気だが、首位はPiratesなのだ。
ここまで気配を殺してきた小林は、こんな手牌になっていた。
リーチドラ1の愚形テンパイ。
待ちは魚谷が1枚切っている。
そして下家の沢崎は…国士ではなく、ピンズのホンイツだろうか?
この待ちに全てを託していいのか、この待ちにPiratesの運命を預けてよいのだろうか。
小林はいつものように、慌てることなく
テンパイを外した。
同巡、すぐに
手負いの獅子・多井のリーチが襲いかかる。
小林としては、ひとまずは最初の不利な待ちでリーチしなくてよかったというところか。
そんな小林は、回っているうちにテンパイが入る。
浮いている牌はどちらも通っていない牌だが、切れるのか?そしてリーチは?
どうする…
これまでと何ら変わらぬ表情で場を見つめる小林が紡ぎ出したのが…
テンパイ取りだ!
そしてこのテンパイを
ひょっこりツモって5001000。
船長が最終航海に向け、いよいよ帆を張った!
東4局
親番に向け盛り上がるPiratesファン。
その親番・小林が手にしたのは…
絶望の9種9牌の配牌だった。
絶望ついでに国士へ行くか?
いや、船長のとった航路は国士ではなかった。ホンイツもみて自然に端牌を打ち出したのだ。
常に自然体で、コツコツと。
そんな普段からの小林らしい舵取りだ。
誰が想像しただろう。この絶望的な配牌が