歴戦の多井隆晴が抗ったオーラス“親ノーテンだけは、許さない”【須田良規のMリーグ2021セレクト・4月26日】文・須田良規

実は小倉孝自身、過去に他家のテンパイノーテンで優勝者が決まるシーンの当事者だったことがあった。

外部リンク:鈴木たろう最大の苦悩

興味がある方は、片山まさゆき先生がその話を漫画に書き下ろしているので、読んでみて欲しい。

このときは、テンパイノーテンを委ねられた他家に残された条件はもっと絶望的なものであったが、
それでもテンパイを宣言して優勝者を決めるしかなかった。
親がノーテンで逃げ切ることを拒否する、それが追う側に残されたせめてもの選択だった。

現実的に優勝者を変えるだけの選択を多井が果たしたかどうかはわからないが、
(様々な付随する影響もあるため)
ここまでの堅固な意志を選手たちが共通で持っておくことは、大きいかもしれない。

さて、多井の打【5マン】の結末は、直後に堀がカン【6マン】をツモって2000オールのアガリとなった。

これも、多井テンパイ、近藤ノーテンなのでアガらないで伏せた方がよかったのではないか?
と考えた方はいたと思う。

しかしやはり小倉は、

「多井さんは堀のノーテン宣言を拒否するスタンスであるべきで、
ならばそれを汲んで堀もアガるべきだし、テンパイ宣言も必ずするべきだ」

と語っている。

おそらく私たちが呑気に想像するような──、
他家に委ねるノーテン宣言など、元よりあり得なかったのかもしれない。

堀も、多井も、近藤も、全力でテンパイに向かい、
多井はさらに堀と近藤にテンパイを入れさせるための【5マン】切りであったわけだ。

近藤も、もしこの後無駄ヅモだけでテンパイを果たせずとも、
最終手番には何か強い牌を手出しして、堀にテンパイさせる、あるいは自分のテンパイアピールをしただろう。

究極の、最後の最後はそれぞれが最大限にできることを絞り出して行かねばならないのだ。

多井は、絶対に堀のノーテンを許さなかったし、堀の方もそれを理解している。
ここまでのことを、私たちがあの場で自身の全身全霊をもって、打牌に表すことができただろうか。

きっと、多井は来年もこのオーラスを打つ。

渋谷ABEMASは、それをはっきりと期待させる強いチームである。

普通の打ち手は、このようなタイトル戦決勝の舞台に立つことすら滅多にない。
麻雀プロであっても多くがそうなのである。

タイトルなど一生に一度でも取れればいい方で。

こんな極限の選択を強いられることすら──、人生において何度あるだろうか。

つまり、いくつものタイトル戦決勝経験があり、Mリーグという舞台に昇った選手たち自体、
私たち凡百の人間とは全く違った試練を戦い抜いて来たのである。

堀と近藤、多井の激闘を私たちは忘れない。

そして、それを守り抜いた滝沢の淀みない打牌も覚えておきたい。
そう記憶に残らなかったことこそ、プロの所業だったのである。

今期も、最高に視聴者を楽しませてくれたシーズンだった。
全ての選手たちに、心から感謝したいと思う。

本当に、お疲れさまでした。

 

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