歴戦の多井隆晴が抗ったオーラス“親ノーテンだけは、許さない”【須田良規のMリーグ2021セレクト・4月26日】文・須田良規

歴戦の多井隆晴
抗ったオーラス
“親ノーテンだけは
許さない”

【須田良規のMリーグ2021-22セレクト・4月26日】文・須田良規

Mリーグ2021-2022は、周知のとおりKADOKAWAサクラナイツの優勝で幕を閉じた。

さて、その結末の陰にあったある選手の選択に、興味が残ったままの方もいるかと思うので、ここではその理由を整理して、私の今期のレポートの締めくくりとしたい。

4月26日(火)の第2試合、まごうことなきファイナル最終戦のオーラスである。
ここまで、本当に様々な戦いのドラマがあってのこのポイント状況。

レギュラーシーズン90試合、セミファイナル16試合、ファイナル12試合の
とてつもない長い道のりを終え、いま3チームに現実的な優勝条件がある。

麻雀の過酷さ、面白さの妙を感じずにはいられない。

注目したのは、絶対的な信頼を受けてやはり最終戦を任された渋谷ABEMAS多井隆晴のこのシーンだ。

南4局1本場、供託1
状況としては、

KADOKAWAサクラナイツは27.5pセガサミーフェニックスより上なので、堀慎吾はこのままの近い3着4着はセーフ。
逆に近藤誠一は、堀と2着順差をつけたいので、400点差の多井をまくればよい。
ただし多井から2000点以上をアガると多井がラス落ちしてしまうので、
その場合は3着になった堀と7500点差以上になる点数でなければならない。

多井は、三倍満ツモ、あるいは滝沢からハネマンの直撃、近藤から三倍満の直撃、堀から三倍満の直撃が条件である。

この局での条件達成は難しいと、多井は形式テンパイを入れている。

まず多井は、堀にテンパイ続行してもらうことが絶対必要である。

堀は、近藤ノーテンが明白な場合に伏せることができる。が、おそらくそれはできない。
不確定な他家の動向に、最も重要な局面の選択は任せられないだろう。

なので多井は、近藤にも、そしてもっと言えば堀にもテンパってもらわなければならないのである。

多井が、卓上をにらむ。

そして、堀も多井の一挙手一投足を見逃すまいとする。

ここは、Mリーグ史上に残る名シーンであった。

そして多井の選択は、場に強烈な打【5マン】

しかし──、誰にもこれが届かない。

近藤の手は、残念ながら【4マン】の方が鳴ける手であった。

このシーンを、
「近藤に鳴かせなかったのか?」
と思ってしまった視聴者の方も、実際はいたのである。

多井ほど、タイトル戦決勝の経験値がある選手はいない。
よってその意図をあの瞬間で、万人が汲み取れるものでもなかっただろう。

【1マン】【4マン】は5枚見えで、堀も切っている。
実際近藤が欲しかったのは【1マン】【4マン】であるが、前巡多井の【7マン】は鳴かれていないので、
多井は生牌で2スジにかかる【5マン】を放ち、近藤か堀に鳴かれやすいと思われる牌を捻出したのである。

多井は、場に危険と思われる方の【5マン】で、他家のテンパイ確率を上げようとしたのが、
あの局面での理由だったわけだ。

これは余談にはなるが──、

この鳴かれずによって、近藤がノーテンではないかと堀の立場で見えた場合、
流局して堀は伏せると優勝になる。

多井テンパイ、近藤ノーテンなら逃げ切りだ。

しかしそれについて、日本プロ麻雀協会の小倉孝がこうコメントしていた。

「もし堀がノーテン宣言したなら、多井さんはテンパイしていてもノーテン宣言するべきだ」

そうすると、近藤がテンパイなら優勝は入れ替わってセガサミーフェニックスになる。

多井の選択で、優勝賞金5000万円、準優勝2000万円が覆るとしても、だ。

「堀のノーテンは、多井さんの優勝がなくなるわけで絶対受け入れられない。ならば──、今後何年も続くこうした激戦において、『ノーテン宣言で逃げ切ることは拒否する』姿勢をここで見せることが、次回以降にもつながる」

というわけである。

 

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