【 #神域リーグ 第9節第27試合 観戦記】傾奇者よ高らかに笑え 漢歌衣メイカの魂よ 全ての麻雀を愛する人へ届け 【文 #後藤哲冶 】

乱打戦の第27試合は、南場に突入する。

5巡目。トップ目の多井から先制リーチ。

そのリーチを受けた瞬間。
歌衣は「もうやるしかない」そう静かに覚悟を決めた。

ラス目で迎えた親番。ここを逃せば浮上のきっかけは掴めない。
親番が落ちたチーム首位の歌衣を、のうのうとアガらせてくれるほど、プロは甘くない。

だから、攻めるしかない。

テンパイが入る。寸分の迷いもなく、歌衣は無スジの【5マン】を横に曲げた。

これを、一発でツモり上げる。
個人首位をひた走る歌衣の実力。多井とのめくり合いに勝利し、一気に点数を回復した。

南1局1本場へ。

歌衣の手にドラが2枚と役牌の東が対子。
形も良く、かなりの好配牌だ。
流れが来たか。麻雀の流れというものを信じる者なら、そう思いそうなこの配牌。

たろうから東が出る。歌衣がこれをポン。
見える。実際の卓に座っているわけではないのに。
打っている表情が、直に見えるわけではないのに。

目を血走らせて、高鳴る胸を抑えつけながら、必死で仕掛けていく歌衣の姿が。

届く。このトッププロ3人の喉元に、歌衣が食らいつく。

しかし、事をそう簡単に運ばせてくれるほど、このメンバーは甘くない。
たろうが、多井から出た【白】をポン。

歌衣にこれ以上点はやれない。
変幻自在の打ち手たろうが前に出てきた。

更に松本から出た【西】をポン。
間違いなくこの時、歌衣には冷や汗が流れたことだろう。
やめてくれと。待ってくれと。心の中でそう唱えたはずだ。

歌衣はこの持ってきた【3マン】で少考に入る。
【2マン】の受け入れが増えるが、ドラは【1マン】。できれば2枚使いたいところ。
が、たろうの仕掛けが気になる。少しでも慢心すれば、速度を緩めれば、あっという間にアガリは遠のくだろう。

【5ピン】【2マン】の受け入れも増やし、たろうへ危険な牌を先に打てる良い一手だ。

松本から出た【9ソウ】をチー。
歌衣にテンパイが入る。ドラの【1マン】でアガれば満貫12000。
歌衣の心拍数が、上がる。

しかし、この時南家に座る多井は冷静だった。

「チーさせる」
静かにそう呟いた多井は、自分の手を諦める【3マン】を中抜き。
そしてこれがたろうの急所。ペン【3マン】でチー。

この程度のこと、息をするようにやってくるのがトッププロ。
誰を止めるべきで、今自分の最善がなんなのか。
これを理解しているからこの打牌ができる。

歌衣とたろうの2人テンパイ。
結果は……。

枚数で勝るたろうがアガリをものにした。
忘れてはいけない。歌衣が相手にしているのは、麻雀界のトップ3人であることを。
今まさに走り出そうとした歌衣の目の前に、3人の姿が大きく立ちはだかる。

歌衣の親番が落ちた。

ほとんどの人間は、ここで歌衣の夢が潰えたことを半ば確信する。
「よくやったよ」と。「大健闘だよ」と。そんな声が聞こえてきそうだ。

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