乱打戦の第27試合は、南場に突入する。
5巡目。トップ目の多井から先制リーチ。
そのリーチを受けた瞬間。
歌衣は「もうやるしかない」そう静かに覚悟を決めた。
ラス目で迎えた親番。ここを逃せば浮上のきっかけは掴めない。
親番が落ちたチーム首位の歌衣を、のうのうとアガらせてくれるほど、プロは甘くない。
だから、攻めるしかない。
テンパイが入る。寸分の迷いもなく、歌衣は無スジのを横に曲げた。
これを、一発でツモり上げる。
個人首位をひた走る歌衣の実力。多井とのめくり合いに勝利し、一気に点数を回復した。
南1局は1本場へ。
歌衣の手にドラが2枚と役牌の東が対子。
形も良く、かなりの好配牌だ。
流れが来たか。麻雀の流れというものを信じる者なら、そう思いそうなこの配牌。
たろうから東が出る。歌衣がこれをポン。
見える。実際の卓に座っているわけではないのに。
打っている表情が、直に見えるわけではないのに。
目を血走らせて、高鳴る胸を抑えつけながら、必死で仕掛けていく歌衣の姿が。
届く。このトッププロ3人の喉元に、歌衣が食らいつく。
しかし、事をそう簡単に運ばせてくれるほど、このメンバーは甘くない。
たろうが、多井から出たをポン。
歌衣にこれ以上点はやれない。
変幻自在の打ち手たろうが前に出てきた。
更に松本から出たをポン。
間違いなくこの時、歌衣には冷や汗が流れたことだろう。
やめてくれと。待ってくれと。心の中でそう唱えたはずだ。
歌衣はこの持ってきたで少考に入る。
の受け入れが増えるが、ドラは。できれば2枚使いたいところ。
が、たろうの仕掛けが気になる。少しでも慢心すれば、速度を緩めれば、あっという間にアガリは遠のくだろう。
打。の受け入れも増やし、たろうへ危険な牌を先に打てる良い一手だ。
松本から出たをチー。
歌衣にテンパイが入る。ドラのでアガれば満貫12000。
歌衣の心拍数が、上がる。
しかし、この時南家に座る多井は冷静だった。
「チーさせる」
静かにそう呟いた多井は、自分の手を諦めるを中抜き。
そしてこれがたろうの急所。ペンでチー。
この程度のこと、息をするようにやってくるのがトッププロ。
誰を止めるべきで、今自分の最善がなんなのか。
これを理解しているからこの打牌ができる。
歌衣とたろうの2人テンパイ。
結果は……。
枚数で勝るたろうがアガリをものにした。
忘れてはいけない。歌衣が相手にしているのは、麻雀界のトップ3人であることを。
今まさに走り出そうとした歌衣の目の前に、3人の姿が大きく立ちはだかる。
歌衣の親番が落ちた。
ほとんどの人間は、ここで歌衣の夢が潰えたことを半ば確信する。
「よくやったよ」と。「大健闘だよ」と。そんな声が聞こえてきそうだ。