「まだ終わってねえ」
……しかし歌衣は、「漢」歌衣メイカは、諦めてなんかいなかった。
南2局
この局が始まった直後、歌衣は自配信で「たかちゃんトップだから素点欲しいだろ。めちゃくちゃ勝ちたいと思うから、ここは慌てず、打点をとる。急いでも仕方ない」と、冷静に状況を把握。
素晴らしい状況把握能力だと思う。
神域リーグが始まる前、ここまでの状況把握が、果たして歌衣にできただろうか?
歌衣はCランク選手。
しかしもう、歌衣をただのCランクだと思う人はいないだろう。
選手の成長していく姿を見れるのも、神域リーグの醍醐味なのではないだろうか。
8巡目、多井からリーチが入る。
歌衣が言ったように、多井は絶対にトップが欲しい。親番が控えているたろうに迫られているのもあり、ここは親リーチを敢行。
リーチを受けて一発目の歌衣の手牌がこれだ。
かなり苦しい。ドラ3とはいえアガリにはかなり遠い形。
から。
必ず通るという牌ではない。それでも、歌衣は踏み込む。
そもそも通っている牌が無い。なら、いっそ前へ。
を引いて、打ち。
方針は変わらない。どうせツモられるのを待ったところで、ラスという現状は変わらない。
なら少しでも、自身のアガリへ近い方へ。
暴風の中を、歌衣が歯を食いしばって突き進む。
を再び引いて、ノーチャンスになったをプッシュ。
見えてきた。嵐の向こうに、一筋の光。
引き。イーシャンテン。
後退のネジは外した。
あとはもう、前へ突き進むだけ。
「勝負!俺はオリねえぞ……!」
「絶対1位とる絶対1位取る!」
リーチ!
歌衣の発する言葉から、熱があふれ出る。
この絶望的な状況で、歌衣はラス回避どころか1位を見ていた。
魂のプッシュ。
視界を塞ぐ嵐の中をひたすら前へ進み続けた歌衣に待っていたのは。
ツモ……!
裏ドラもきっちり1枚のせて見せた歌衣が、一気にトップが見える位置に躍り出た。
まだ終わっちゃいない。力強く言い切った歌衣の目は、今まさに燃えている。
南3局
ここから、長い長い残り2局が始まる。
早々にたろうの親を蹴りたい多井が、発を仕掛けてカン待ちのテンパイ。
これに松本が追い付く。
しかしこれでは通常、出ていく牌が。
万事休すかと思われたが。
切りリーチ……!
打点が欲しい松本は、切りならイーペーコーが欲しい。
だが、は既に1枚切られていて苦しく、であればをツモっての満貫に仕上げることを選んだ。
プロの技が光る。
そして親番のたろうも、ここから脅威の粘りを見せる。
ホンイツに向かっていたこの手牌から、松本に対して通りそうな牌を慎重に選んでいき。