昔の麻雀漫画を読んでいると、代打ち同士の戦いなどに債務者が自身の保険金を賭けて、
負けた側が命を失う、家族が路頭に迷うなどの恐ろしい展開が多くあった。
現実にあったことかどうかはよくわからないが、
麻雀が博打の道具としてしか使われなかった時代では、
人生を左右する大きな勝負としてそうしたドラマが好まれる性質は、確かにあった。
今はどうだろう。
Mリーグは健全な、ギャンブルではない競技としての麻雀の面白さを謳っている。
だが、だがである──。
1月13日(金)の第2試合
南1局、北家のU-NEXT Pirates・小林剛がドラのをポンした。
37000点持ちのトップ目からさらなる加点を狙う。
東家の赤坂ドリブンズ・村上淳は小林の現張りでテンパイが入るが、自身は14100点しかないために果敢にリーチ。
しかしこれは、小林のマンガンツモアガリ。
村上は親被りしての親落ちになる。
南2局、村上は9100点しかなくなる。
国士しかやりようのない手牌で、
またも小林がツモアガリ。
国士をやっている村上を嘲笑うかのような、ヤオチュウ牌シャンポンでの一発ツモ。
裏ドラにもヤオチュウ牌のがめくれて、裏3のハネツモである。
赤坂ドリブンズは、ここまで約マイナス500pの最下位、
セミファイナルボーダーの6位KADOKAWAサクラナイツまで、300pくらいの差がある。
現状7位のセガサミーフェニックスも厳しいスコア状況ではあるが、
昨期ファイナルに残っていて入れ替え規定に抵触しないために、危機感はやはり違う。
これは──、何を見せられているんだろう、と思った。
昨期より成績の振るわない村上が、入れ替え対象となってMリーガーでなくなる未来は十分ある。
人生を左右する大きな勝負として、かつてフィクションであったような無慈悲なドラマが、
正に現代、私たちの眼前で実際に行われているのだ。
淡々と村上の点棒を奪っていく小林は、もしかすると複雑な心境なのではないかと思う。
そりゃあプロなんだから相手に勝つのは当然だ、仲良しこよしで甘いことを考えるべきではない──、
というのは至極まっとうで、正論なのだろう。
しかしMリーグが始まるまで、麻雀プロ業界を引っ張ってきた小林、村上の同志としての記憶や経験は、決して忘れがたい重みがある。
オカルトバスターズという、業界にはびこる悪しきオカルト論に対抗する誌上企画を作ったのも小林、村上だった。
何の報酬にもならぬ勉強会や私設リーグに長年参加して、ただただ自身と周囲のレベルアップに尽力してきたのも彼らだった。
Mリーグという舞台を作り上げた礎となったのは、間違いなく小林や村上のような人間なのだ。
それが、小林が引導を渡す形で村上の点棒と、人生を奪っていく。
また誰よりも、入れ替えの厳しさをわかっているのは、昨期対象となったパイレーツの小林なのである。
普段はきっとみんな、お互いにしがらみも確執もなく、
共に麻雀というゲームの面白さ、素晴らしさを伝えていく麻雀プロという存在が。
本質的には相手を蹴落とし、勝ち続けて行かなければならない厳しい職業であることを、まざまざと見せつけられている。
私たちは傍観者だ。
ただエンタメとしてこの鎬を削り合う壮絶な争いを、楽しんでいる。
もちろん金銭や生命に関わる過去の遺物とは様相を異にしているが──、
勝負の世界というのは、改めて残酷で、心震わせるものだと痛感する。
南3局、6100点持ちの村上はこのリーチを入れる。
待ちのリーチタンヤオ赤赤だ。
このとき仕掛けているダントツの小林はすでにこのテンパイ。
ここで東家の渋谷ABEMAS・白鳥翔が村上からポンテンを入れたが、村上から食い取る形でを持ってくる。
白鳥は小林と大きく離れた2着目で、村上とは18800点差である。
ここはオリて、直後に小林がつかんだを村上に放銃した。