悲願へ向けて突き進め 松本吉弘、周り道の先にある勝利の栄光【Mリーグ2022-23ファイナル観戦記5/11】担当記者:東川亮

悲願へ向けて突き進め
松本吉弘
周り道の先にある
勝利の栄光

文・東川亮【木曜担当ライター】2023年5月11日

朝日新聞Mリーグ2022-23ファイナルは、全8日間、16試合での開催となる。8日間を全8局で行われる麻雀の半荘戦に当てはめると、3日目となる5月11日は「東3局」に該当する。

この日の第1試合では、渋谷ABEMAS白鳥翔がトップを獲得。ABEMASはファイナルで初めて優勝ポジションにつけた。まだまだどうなるかは分からないが、東3局でトップ目にいることで戦略面・精神面ともにある程度優位に立てるのは、麻雀を打ったことがある方であればご理解いただけると思う。

まだ序盤か、もう中盤か。
ABEMASが抜け出すが、他が捕まえるか。
ある意味で、前半戦のターニングポイントとなる試合かもしれない。

第2試合
東家:瀬戸熊直樹(TEAM雷電) 
南家:松本吉弘渋谷ABEMAS
西家:高宮まり(KONAMI麻雀格闘倶楽部)
北家:勝又健志(EX風林火山)

東2局2本場。松本は絶好のカン【7ピン】を引いて、ドラメンツが完成した。【6マン】【1ピン】を切ると1シャンテンになるが、そこからストレートにテンパイしたときは必ず愚形待ちになる。とはいえ局は中盤、真っすぐ打って先制の親リーチを目指す進行もあるか。

松本の選択は【9マン】のトイツ落とし、1シャンテンを取らない。一見テンパイまでは遠回りしたように見えるが、こうしておくとマンズ周りを引いたときに好形テンパイを作りやすく、打点も見えるようになる。

次巡の【2ピン】引きは最速テンパイこそ逃した格好だが、これも織り込み済み。

先制テンパイこそ高宮に許したものの、【7マン】引きはタンヤオが確定、高目イーペーコー【5マン】【8マン】待ちなら文句なくリーチだ。

リーチの後は、自分のツモ山に待ち牌がいるかどうかの勝負。今回は一発で高目【5マン】をツモるという僥倖だった。しかし、それをアガリに結びつけられたのは、松本が拙速にテンパイを組もうとせず、より価値のあるアガリを目指そうとしたからに他ならない。

それもこれも、4年にわたって目前に迫りながら手にし損ねた、あの輝くシャーレを手に入れるため。周り道なら十分してきた。そしてその経験は、間違いなく彼らの糧になっている。

ただ、瀬戸熊も負けてはいない。東2局3本場には好配牌をしっかりと生かし、満貫ツモで再び松本を逆転する。

ABEMASが4年にわたってシャーレを取り逃してきたならば、雷電はこの4年間、シャーレを手にする可能性のある場所にすらいけなかった。自分たちはもちろん、これまで悔しい思いをさせ続けてきた雷電ユニバースに報いるためにも、初めてのチャンスを手にしたい思いはひときわ強い。

南1局、瀬戸熊にチャンスが訪れる。こだわって残した456三色が確定する【6ピン】をチーでき、ペン【3マン】待ちのテンパイ。親番で三色ドラ赤赤の満貫は、この試合の流れを決定付ける一撃ともなり得る。ただ、瀬戸熊のリャンメンチーに打点が伴っていることは、Mリーガーの共通認識。当然、甘い牌は出て来ないだろう。

だからこそ、一工夫が必要となる。【1ピン】が暗刻になったところで、

【2マン】【1マン】単騎待ちにスイッチ。ドラ赤含みのリャンメンチーをタンヤオでの満貫と相手が読めば、端牌である【1マン】は完全に盲点となる。【2マン】を左端に寄せていたのは、左から2番目にある【2マン】を手出しすることで【1マン】待ちを読まれることを避けるための工夫。

暴君と呼ばれる男が、狡猾な罠を仕掛けた。しかも【1マン】は全て山。つかめば誰もが打ちかねない牌だった。

しかし、【9ソウ】を引いてきたところで待ちをスイッチ。ペンチャンターツ落としを見せてよりタンヤオに見せる策だったのかもしれないが、【9ソウ】は1枚切れ、残る2枚は松本にトイツで、山には残っていなかった。

自身の河に並ぶ【3マン】【1マン】を、瀬戸熊はどんな思いで見ていたのだろうか。

流局で加点し、親番をつないで連荘は、場合によっては良い結果と言えることもある。しかし今回は、結果的には決定機を逸した形となってしまった。

次局、瀬戸熊は松本と高宮の仕掛けに挟まれる。少し前に松本が切り、高宮が動いていなかった【6ピン】を切ったところ、ダマテンを入れていた勝又に放銃。メンホン【發】満貫と、打点も大きい。

瀬戸熊はこの放銃について、試合後の振り返り動画で「心のドアを閉め切れていなかった」と悔いた。瀬戸熊ほどの場数を踏んでいても、そのようなことが起こるのがファイナルの舞台なのだろうか。これで瀬戸熊が大きく後退し、松本がトップ目に立つ。

南3局1本場では、高宮が直線的にテンパイへと向かってリーチをかけ、愚形待ちをものともせずにツモって満貫。これでトップ戦線はますます先が分からなくなった。

オーラス突入時、トップ目は松本。持ち点は3万点に満たず、容易に逆転されてしまう点差しかない。ただ、この段階でトップに立っている、ということがまず重要だ。

松本は、アガりさえすればトップ。アガリ役を模索していく中で、残した役牌の【發】がトイツになる。この段階で1シャンテン、4巡目ということを考えれば、かなり優位に見える。

次巡、高宮が【6ソウ】をチー。こちらは鳴いてもまだまだ遠いが、【6ソウ】タンヤオが確定する急所中の急所だった。手の内にはドラ赤があり、3900ならどこからどうアガっても松本を逆転できる。

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