赤坂ドリブンズ・渡辺太は35歳でプロ歴はまだ1年と、異色の存在である。
それまで医師として働きながら10年以上ネット麻雀の世界で活躍し、
第5代4麻天鳳位(2014年)、第14代3麻天鳳位(2019年)、第16代4麻天鳳位(2020年)のトリプル天鳳位を獲得している。
ネット麻雀で最強の域にいる選手がどのような麻雀で他のプロ雀士たちと戦うのか、私も関心があった。
実は9月26日(火)の第1試合に出た渡辺の戦いを見て、かなり押すな・・・という感想を持った方が多かったそうだ。
南1局1本場、東家の渡辺は5巡目に上家からリーチを受けた。
自身は親とはいえ愚形残りでノミ手のイーシャンテン。
はペンチャン落としの途中で不要な牌。
と現物があり、オリは叶いそうな牌姿だ。
またはネックのカンを鳴いて一発を消し、そしてを切ってクイタンに行く人もいるかもしれない。
渡辺は山に手を伸ばし、を引く。
が現物であるが、一発でを通す。
現状渡辺はリーチの3着目北家と13300点差上の2着目、トップの西家とは18100点差である。
その西家はKONAMI麻雀格闘倶楽部・佐々木寿人。
記憶にも新しい驚天動地の三倍満ツモの直後である。
これが佐々木寿人か──と、
渡辺はそれまで膨大な時間を過ごしたパソコンの画面、その向こうにいたMリーガーの存在感を肌で感じた瞬間だった。
渡辺は次巡、通っていないを持ってくるがこれもツモ切り。
そして8巡目にツモで即リーチと行った。
場に1枚切れカンの愚形残りのリーのみだ。
しかしこれに共通現物のない南家が、先行リーチの現物を抜く形で放銃。
裏1で3900のアガリとなる。
この局を渡辺は、あの三倍満ツモを見ても普段通りに、トリプル天鳳位を達成したいつもの麻雀を貫き通せたと振り返る。
渡辺は──、卓の下に隠された左手で常に数えているのだという。
それは、リーチに対して通ったスジの数だ。
残りスジのカウントを間違えないように、忘れないように、
それを押し引きの基準として、自身の指針がブレないように。
麻雀のスジは18本ある。
相手が字牌しか切っていないリーチなら、1スジ切って当たる確率は1/18=5.5%
1スジ通ってれば1/17=5.8%、2スジ通ってれば6.2%、3スジ通れば6.6%・・・というように当然増えていく。
当たり前のことだが、これを一つずつ丁寧に計算している人はほとんどいないのではなかろうか。
南3局1本場に下家が字牌だけ切っての2巡目リーチ。
この瞬間はもちろん18スジ全部が当たり候補で残っている。
が通り、が通り、が通り、が通り、が通った。
これを渡辺は左手で、指折り1・2・3・4・5・6と数えている。
は2スジなのでこれで6スジというわけだ。
リーチが単純リャンメンの場合なら新たなスジが当たるのは1/12。
ここで通っていない押し。
涼しい表情だが、熟慮に熟慮を重ねての打牌である。
もちろんだ。放銃していい状況でもないし、ネット麻雀ではもっと限られた時間の中で判断を迫られている。
ここで間違えるわけにはいかないのだ。
そしてが場に4枚切られたところで、この形。
スジカウントでは自身のにがさらに通って8スジ通り、残り10スジ。
が枯れたこともあってここは現物のを切って引く。一転の守備だ。
次巡のツモで現物がなくなり、スジで2枚ある打。