リーチの前に1枚目を切っているので、守備に回ったわけではなく好形のイーシャンテンが入っているように見える。
実際には北は1枚持ちから切っており、リーチがかかった巡目に2枚目を引き、現物の6mを先に処理しただけなのでトイツ落としでは無いのだが、他家から見れば手が進んでいるように見える。
仮に堀がここでを押して通したとしても、多井からすぐにリーチが来て無筋を掴んだ場合は、オリに回る可能性が高い。
であれば消極的に手を進め、多井より先にテンパイが入った時だけ無筋を勝負する選択肢も考えられるだろう。
堀の手を、もう一度見てみよう。

一番嬉しいテンパイは、当然ドラのを重ねての
待ちだ。
が重なったテンパイも
を勝負する価値がある勝負手だが、
は目に見えて残り1枚しかない。
マンズが先に埋まった場合、例えばを引いた時は、
・
の単騎テンパイにも取れるが、リーチに通っていない以上、
を1枚切ってのペン
待ちに取るだろう。
・
が重なるパターンも、
が既に1枚しかなく7mの重なりしか期待できない。
一見、受け入れが広いイーシャンテンに見えるが、残り枚数を良く見てみると雀頭が先にできるテンパイのパターンが少なく、を切ることが多くなりそうだ。
守備面での理由、自身の手の価値を精査した結果。
堀の選択は打だった。

・
引きは
を勝負し、その他の無筋は
を連打しての迂回になるだろう。
しかし…

堀の次巡のツモは、まさかの。
打の、一番の裏目となる牌をすぐに引く。
前巡、を勝負していればこんな形の最高のテンパイが入っていた。

ただ、このテンパイを組ませないために瀬戸熊はあえて先制リーチを打っていることから、ここまでは瀬戸熊の作戦勝ちと言えるだろう。
大回りにはなるが、を切って
にくっつけ直してのテンパイ復活を目指すしかない。

しかし堀はすぐにを切らず、手を止める。
なんと堀は

ここからさっき切らなかったを押したのだ!
一見ちぐはぐな進行に見えるが、ドラのが重なったため一気に手牌価値が上がり、勝負できる手になったという判断。
周りを既に切っているは使うことが難しいのでここで勝負。
引いても吸収して使えるや
を引いた場合は
を切ってまた迂回することもできる。
この押しは他家から見れば強烈だが、強烈であればあるほど

残り1枚のを持っていた場合は場に放たれやすい。

滝沢が切ったをポンして、すぐに堀はテンパイを入れる。
堀の思考は難解すぎて、思考の全てを解説することは到底できないが、堀が驚くような選択をしたときは、決まって結果を残してきた。


安目だが、瀬戸熊のリーチをかいくぐる僥倖のツモ。
1,000-2,000を成就させ、トップ目からの加点に成功する。
瀬戸熊の戦略的なリーチによって起きた不遇を、堀が腕で跳ね除けた。


オーラスは多井・瀬戸熊の猛追を振り切り、堀が自身のアガリで終局させる。

サクラナイツは残り12戦で、トップが5・6回必要と引き続き厳しい状況が続いている。
しかし、そんな窮地でも堀の至極の一打を見せられると、奇跡が起きるんじゃないかと期待してしまうファンも多いだろう。
日本プロ麻雀連盟所属プロ。株式会社AllRuns代表取締役社長。業界を様々なやり方で盛り上げていくために日々奮闘中。Mリーグ観戦記ライター2年目。常に前のめりな執筆を心がけています(怒られない範囲で)。Twitterをフォローしてもらえると励みになります。
Twitter:@EzakiShinnosuke