ギャンブルに
イカサマは付きもの
ロバート・デニーロ主演の古い映画「カジノ」に、イカサマのシーンがいくつか登場します。 その一つが、カードゲームのプレイヤーの手の内を、となりの卓から盗み見て、それをゲーム中の仲間に教えるというもの。
今ならメールですが、当時は携帯電話がなかったので、無線とリレー・スイッチの振動を利用した暗号で知らせてました。
もちろん発覚。
カジノでは、お客さんの動向は、フロアの従業員が見張っているだけでなく、天井などさまざまな所に仕掛けられた、防犯カメラでもチェックしており、イカサマはほとんど不可能なんです。
実話に基づくという映画の舞台は昔のラスベガス。
カジノはマフィアが仕切っており、イカサマを仕掛けた者は残酷なリンチを受けてました。
カジノでの不正は実はお客さんよりも、従業員がやることのほうがはるかに多い。
これは日本のパチンコ業界などでも常識で、店内の防犯カメラはそのためにあるとも言われている。
さらに言えば、どの業界でも(たとえば銀行)外部の者による窃盗などよりも、内部の者による不正のほうが何倍も大きいんです。
日本に地下カジノがたくさんあったころ、カジノのディーラーとして働いている知り合いが何人かいました。
元は麻雀仲間です。
「山崎さん、今度遊びに来てくださいよ。勝たせますから」
当時の人気の種目はバカラですが、勝たせる方法は聞きませんでした。
おそらく、勝った時に多めにチップを渡す程度の単純な手口だと思われます。
その後彼は、自分の彼女と組んで、ハウスからチップを抜こうとしてオーナーに発覚、映画同様ひどい目に合ったそうです。
新人のディーラーが思いつくようなイカサマなど、上司やオーナーにとっては、すべて経験ずみなんです。
「大きいバカラどうですか。バランスは百万円!」
当時は、赤坂や歌舞伎町を歩くと、こんな呼び込みの声がかかりました。
バカラというのは、本来はお客さんどうしが2組みに分かれて勝負するギャンブルで、賭け金が同じならどっちが勝ってもハウスはコミッションを貰うだけ。
ところが、2組の張り金額が揃わない場合、ハウスがその差額を引き受ける(バランスを取る)ことがある。
バランスは百万円と言えば、百万円まではハウスが勝負を受けるという意味です。
小さなカジノ経営で胴元が怖がるのは、張り客が一方に偏り、さらにそれが連続する、いわゆるツラ目の状態。
「みんな俺に乗れよ、今日はバカヅキだから」
連勝している客に、他の客も同調。
「じゃ、一気に取り戻すか」
さらに賭け金のほうもデカくなることがある。
理論上はカジノ有利でも、これで倒産してしまうこともあるんです。
大きなバランスを受けることをウリにしている以上、ハウスがイカサマをやる可能性は大。
知り合いのディーラーによると、当時多かったのは、次のカードを小型カメラで事前に読み取り、カードを操作する方法。
いくら連勝していても、賭け金額が一番大きくなった時にこれをやられたら、すべてパーになってしまうのだ。
ちなみに、
「俺に乗れよ」
の当人が、カジノの回し者だったというケースもあります。
みんな揃って
騙し合い?
映画「カジノ」では、マフィアもカジノ経営者も監督当局も、従業員も客も女性たちも、こぞってイカサマや騙し合いをする。
金の魅力はもちろんでしょうが、イカサマや騙し合い自体に中毒になっているようにも見えます。
気持ちは良く分かる。
ぼく自身、かつてパチンコの攻略法を使ってた時に、その行為自体にハマってたように思うんです。
ある時、新台の強烈な攻略法が発覚し、さっそく歌舞伎町の店に「パチンコ必勝ガイド」の末井昭さんと駆けつけました。
となりで大当たり中の末井さんの顔は、赤いパトランプに染まって汗ばんでいる。
目の色は何かに取りつかれたかのよう。
もちろん、ぼくも同じ。
その店がほどなく倒産するほどの攻略法だったんです。
攻略法というのは客の言い方で、店からすれば単なるイカサマですけどね。
「山ちゃん、バカラ・パーティーを開催してくれないかな? 最近店が少なくなってきたし」
末井さんの提案です。
「了解」
知り合いに、バカラ道具一式を持っている中年のディーラーがいたので、運営はその人に頼みました。
パーティーの当日、ディーラーはバカラ用のマット(レイアウト)の他、チップやカードボックスなど、本格的に遊べる道具を持って登場。
「山崎さん、勝てるようにしましょうか?」
とニヤニヤしている。
「いや、仲間内の遊びだし普通でいいですよ」
勝てる方法というのは気になったんですが、さっそくパーティーの始まりです。
「バンカー・ウィン!」
「っしゃーっ!」