熱論!21人のMリーガー
多井隆晴・渋谷ABEMAS
対局、解説、ファンサービス
人生の集大成を出し切る覚悟
文・花崎圭司【渋谷ABEMAS担当ライター】
「一番知名度がある雀士は誰か?」といわれたらなかなか難しい。無論、一番知名度がある人は萩原聖人プロだし、ゲームセンターでゲームを楽しんでいる人は、そのゲームに出てくる雀士だろう。
では「一番ファン層が広いのは誰だ?」と言われたら、それはおそらく
麻雀がTVからゲーム、そしてネット配信と裾野が広がる中、最もそれに対応したのが、彼だと思う。
多井を見ていると「全日本プロレス」を立ち上げたジャイアント馬場を思い出す。ジャイアント馬場がこの世を去ってからもう20年たとうとしているが、少しでもプロレスに興味を持った人なら彼を知らない人はいないだろう。
ジャイアント馬場はプロレスラーとして超一流だ。そして彼はバラエティ番組にもよく出ていた。バラエティ番組にでることとプロレスの発展は関係あるのか? 答えは「ある」だ。ジャイアント馬場の身長は209cm。スタジオに座っているだけで存在感がある。他の芸能人とのその体躯の違いに「プロレスラーはでかい」という強烈な印象を与える。その体でクイズ番組に出て、お茶目な回答をされたら、ファンがつかないわけがない。
麻雀ファンになったらもうそのことには気づかないかもしれないが、麻雀にはどうしても“影”がつきまとう。Vシネマとかにある無頼の世界だ。Mリーグはその部分を徹底排除しているが、一般的にはそのイメージがある。別に麻雀に限ったことではない。競馬でも競輪でもボートレースでもそうだ。totoや宝くじも同じだ。「それを全部いっしょに見るのはおかしいのでは?」といわれそうだが、その色があるだけで毛嫌いする人はいる。
麻雀をすると身の破滅となるから、怖い。
麻雀に触れたことがない人の中でそう思っている人は、相当数いるはずだ。
多井はそのイメージを払拭するために、“影”が見つかれば、そこに“光”を当てるため、懐中電灯を持って奔走する。本当は“太陽”になりたいはずだ。でも自分にはまだそこまでの明るさ、ルクスはない。
自分が持っているルクスを上げるためには、まず自分の“知名度”を上げなければならない。そして自分の存在自体を“明るく”する。その努力を彼はし続けている。
その中でも、多井が多井たらしめているのは、「解説」だ。
「明るい」パターンも、「真面目」パターンもあるが、特筆すべきは「明るい」パターンの方だろう。これまでは実況が、それこそプロレス的な手法でやることはあるが、解説でそれをやった人はいないと思う。解説・実況陣が冗談を言い合ういうぐらいだろう。
多井は「多井節」ともいえる解説を入れる。
「海より広いイーシャンテン」
このフレーズは、多井節の解説の代名詞といえるだろう。麻雀を知らない人でも、意味はわからないが、なんか広くていい感じなのかな、と思うはずだ。
「マウンテンスリー」
「フルマウンテン」
「ザリガニより赤い」
など、ただ英語にしただけ、おじさん比喩みたいなものもあるが、「多井節」の中に組み込まれると「ああ、なんかすごいことになってるんだな」と思ってしまう。
また対戦相手がどんなプレイをするのか研究していることを利用して、解説でも、絶妙な距離感でプレイヤーを時にはくすぐり、時には絶賛する。
麻雀をメジャーなものにするためには、この解説が必要なのだ。
濃い麻雀ファンは「ふざけている」と思われるかもしれない。でもそれはそれでいいと私は思う。濃い麻雀ファンには、自分の麻雀のプレイでその強さを見せれば、納得させることができる。
――と簡単にいうが、もちろんたやすいことではない。そのことは多井自身重々承知だ。でも、彼はその重圧を常に背負ってきた。
RMU。この小さな団体の代表が多井隆晴だ。RMUは「リアル・マージャン・ユニット」の略だと知っている人は、相当な麻雀好きだ。その人はきっと、同じくMリーガー・小林剛プロが所属する「麻将連合」を“まーじゃんれんごう”とスッと読めるだろう。小さい団体だからといってくさしているわけではない。「最高位戦」の正式な団体名を言える人もそうはいないはずだ。
話を戻そう。その小さな団体、RMUで活躍する、さらに言えば「食べていく」には相当な“営業活動”が必要だ。ゲームセンターに行っても、多井隆晴の名前はない。自分が麻雀で活躍できるところを探し、代表として出向いて、頭を下げる。裏切られたり、約束を反故にされたことは数多いはずだ。腸が煮えくり返り、叫んだことも何十回どころじゃないだろう。
でも、それでも明るく笑顔でいなければならない。大好きな麻雀で生きていくために。
そしてチャンスをもらえばそのことに感謝し、真摯に仕事に打ち込む。
麻雀対局なら、勝つのが仕事だ。
解説なら、その対局の視聴者にピントを合わせた解説をするのが仕事だ。
もちろん服装にも気を使う。
これは私の癖なのかもしれないが、人を見ると、どんなものを持っているかチェックしてしまう。それはブランドだったり、色だったり、靴のジャンルだったり。
多井はエルメスのバッグ、そしてベルトをしていた記憶がある。スーツもそれに準ずるものだろう。
プロとして、夢を持ってもらう“職業”にしないといけない。
自分がどこで見られているか分からない。それこそ私のような人間がいるのだ。その時、わかりやすく、そして自分らしいものでないといけない。
AbemaTVの「熱闘!Mリーグ」で、二階堂亜樹プロがメルセデス・ベンツを乗っている映像があった。
コメントを見ると、ベンツに乗っている、というコメントがたくさん上がっていた。少し考えれば亜樹プロがそれぐらい乗っていてもおかしくないことはわかるはずだが、やはり“ベンツ”マークの威力は強い。
曖昧な記憶で申し訳ないが、亜樹プロは車はちゃんと走ればいい、という考えだった。車メーカーに頓着はない。
「亜樹ちゃん、お願いだからベンツに乗って。後輩に夢があるところ見させてあげて」
そう言われてベンツに乗っていると記憶している。素敵なお姉さんだと思う。
ちなみに、私はバナナマンが大好きだ。日村勇紀は番組でポルシェを買い、ロレックスを買い、金のブレスレットに金のネックレスを買っている。それによって、あの体格もあいまって、どっしりとした印象、今や大御所感が出ている。
それをプロデュースしたのが相方の設楽統だ。彼は相方にただ買わせるだけではなく、誕生日プレゼントとしてルイ・ヴィトンの財布などをプレゼントしている。まだ若手と言われているときからだ。
そのようなプロデュースを多井は多井自身でやっている。いわゆる「自己プロデュース」だ。これを上手にできる人は、そういない。彼も試行錯誤をして、自分的にも、他人的にも、そして映像的にも一番しっくりきているのが今の形なのだろう。
もちろん、麻雀プロの本分は麻雀だ。ここで文字通り“下手を打つ”わけにはいかない。一度成功したぐらいで次のチャンスが巡ってくるとは限らない。ましてや一度失敗したら二度と声はかかってこない。
そこで思う。
彼のキャッチフレーズ
「最速最強」
とはなんだろうか? 麻雀を見ていたら早いわけではない。むしろ遅いほうだと感じる。
そのことについては著作「多井熱」に書かれてある。
詳しくはその本を読んでいただきたいが、対局相手の手作りのスピードを見ながら、相手がアガるギリギリまで自分の手牌の価値を上げる。もし相手が6巡目でアガりそうなら、5巡目にアガれるマックス打点を目指すし、みんな12巡目までいきそうなら、11巡目にアガれるマックス打点を目指す、ということだろう。