これをやるには手順はもちろん、相手の研究もしなくてはいけない。それこそ相手のクセ読みまで研究しているだろう。こうなると単に「早鳴きをしてくるな」「三色が好きだな」だけではなく、点棒状況や座順、対局する4人の組み合わせ、性格など、いろんな想像力や読解力が必要になってくる。
しかし。話は戻る。
麻雀をよく知らない人は、麻雀はそういう思考ゲームだということはしらない。興味もない。
麻雀プロも、極論を言えば、麻雀に興味ない人はこっちも興味がない、興味がある人相手でもルールや定跡が分からない人は相手にしない、という人もいるだろう。理解されないのなら理解されないままでいい。
多井はそういう人を切り捨てない。そういう人たちにこそ麻雀の未来と可能性がある。だから、そんな人に麻雀を楽しんでもらう方法を模索する。
冒頭、ジャイアント馬場と似ているといったが、彼が立ち上げた全日本プロレスは
「明るく、楽しく、激しいプロレス」
という言葉を掲げている。
そして多井が目指しているところは、
「明るく、楽しく、激しい麻雀」
なのではと思うのだ。
「明るく、楽しく」だけではない。「激しい」だけではない。この3つが揃った「王道麻雀」を目指しているのでは、と。
その王道麻雀ができる土壌がついに2018年、生まれた。Mリーグである。
彼は渋谷ABEMASのドラフト1位選手であり、その渋谷ABEMASの監督は、Mリーグのチェアマンであり、Mリーグを配信しているAbemaTVの代表である藤田晋である。優勝が宿命づけられたチームといっていい。
そんな優勝することも大切だが、それ以上に大切なことが、この渋谷ABEMASにはあると、私は思う。
渋谷ABEMAS所属選手は、多井隆晴、白鳥翔、松本吉弘の3人だ。
まず40代、30代、20代と世代が違う。
そして多井はRMU所属、白鳥は日本プロ麻雀連盟所属、松本吉弘は日本プロ麻雀協会所属。Mリーグに参戦する7チームの中、唯一所属チームがバラバラなのだ。年代も団体も違うこのチームを多井は束ねないといけない。
でもこれは多井の望むところだろう。むしろバラバラで良かったと思っているかもしれない。
自分たちが戦っているのはMリーグだ。渋谷ABEMASのチーム力、結束力を強くするにはバラバラの方がやりよいかもしれない。
自分がプロとして生きてきた23年、そしてRMUとして生きてきた11年。その集大成を見せる時がきたのだ。
Mリーグ元年の渋谷ABEMASは、序盤ぶっち切りのトップ、そこから決勝プレーオフ争いに急降下。さっそく麻雀の激しさを見せつけてくれている。
もちろんこのままで終わるわけにはいかない。プレーオフに残ればいいと思っているわけがない。
てっぺんへ。
目指すのは1位でファイナル通過。そしてプレーオフ優勝の「完全優勝」である。
それをなし得るためには、多井の熱がもっともっと上がり、彼の明るさ・ルクスは懐中電灯からスポットライトへ、そしてもっと大きな光となるだろう。
最後に。
毎年夏とクリスマスの2回、「高校女子オープン」という女子高生だけの大会が開かれ、
その解説を多井プロがされている。
その出場選手のひとりの女の子が、実はこの大会に出るかどうか迷っていた。ネット配信されるため、自分の名前と顔が映る。そのハードルは高い。しかも親も反対するだろう。でもその母親が、解説が多井プロと知って「多井プロと会いたいから出なさい」といったという。多井プロがコツコツ築き上げてきた「安全安心」ラベル、信頼度の高さが出ている話だ。
本当に余談・私信になりますが、私は「坂道」系のアイドル、そしてNMB48のファンで、多井プロもNMB48のファンと聞いています。
NMB48が出ている麻雀番組の解説は鈴木たろうプロ。勝手ながらここでも多井プロに「てっぺん」をとってほしいと願っています。
花崎圭司(はなさきけいじ)
放送作家・小説家・シナリオライター。映画化になった二階堂亜樹の半生を描いた漫画「aki」(竹書房刊)の脚本を担当。