もう今この瞬間、ひと思いに殺してくれ!“百恵ちゃん、地獄の期間工時代編”【百恵ちゃんのクズコラム】VOL.30

もう今この瞬間、

ひと思いに殺してくれ!

“百恵ちゃん、

地獄の期間工時代編”

【百恵ちゃんのクズコラム】

VOL.30

 

 

しばらくは穏やかな日々が続いていた。

平日は仕事に行き、土日には会社の飲み会や麻雀大会に出たり、予定がなければ地元に帰るという日々だった。

ただ、夜勤が辛いことだけには変わりはなかった。就業時間は20時半頃から5時半で残業がない日はほとんどなかった。が、夜勤に関しては定時に帰される方が辛かった。定時に帰ってうっかり7時なんかに寝てしまった日には昼過ぎに起きてしまう。そうなるとその後予想される夜勤の辛さに絶望し消えてなくなりたくなるのだ。

夜勤従事者からすると睡眠が満足にとれなかった日は悲惨である。
いかにつらいかを身に染みてわかっているので「昨日眠れなかった…」という人がいると栄養ドリンクや眠気覚ましの錠剤を分け合ったり、心底同情して「自分は眠れてよかった」と、いつかくるかわからない眠れない日に対して怯えて震えるのだ。

夜勤の1番辛い時間帯は2時から4時に掛けての時間帯である。百恵ちゃんはこの時間になると半泣きになりながら

「次の契約更新は絶対断ろう」

と決意したり

「もう今この瞬間、ひと思いに殺してくれ」

と心の底から思っていた。

眠気対策としてフリスクの一番辛いものを一気に口の中に入れたりもしていたがほとんど眠気は覚めなかった。が、食べないよりは食べた方が眠くない気がしたのでポケットには常にフリスクを忍ばせていた。
ただ『フリスクは1回に5粒まで』と決めていた。そう決めておかないとあまりの眠さに自暴自棄になってありったけのフリスクを流し込んでしまうからだった。

そしてそんな努力もむなしく眠気には到底勝てない訳だが、突如として目が覚める瞬間がある。終業時間だ。
先程まで「殺してくれ」と思うくらい眠かったのに仕事が終わった瞬間に頭がお花畑状態になり、

「このあと朝市にでも遊びに行こうかしら☆」

という気持ちになっているのだ。

しかし、本当に元気になるわけではなく実際には朝市まで行ったとしても力尽きて陳列されてるほっけの開きをボーッとうつろな目で眺めるだけだった。百恵ちゃんはこの朝市のほっけの開きを眺めるだけの廃人行為を3回やった。市場の人々はさぞ怖かったことだろう。

そしてそのうちに百恵ちゃんは立ったまま寝るという技を会得した。
もちろん作業中に寝ることはできないが、マシントラブルがあると修理をしている間、作業員はジッと待っていなければならない。その時にちょこっとだけ寝るのだ。
待機の姿勢は決められていて後ろに手を回し直立するスタイルを強いられていたのだが百恵ちゃんはそれを維持したまま寝ることができていた。時々バレてしまうこともあったが

「ぜったい寝てません」

と言い張ってなんとかやり過ごした。

そんなふうにのろりくらりとやり過ごしていると百恵ちゃんは気が付くと期間工としてはベテランの域になっていた。

そして百恵ちゃんはメインと呼ばれる場所を担当することになる。
メインは唯一自動で流れているラインであり少し遅れるだけでも全体のラインが止まってしまうという場所だった。しかも大幅に遅れると違う部署のラインまで止まってしまうというとてもプレッシャーの掛かる工程だった。

プレッシャーに大変弱い百恵ちゃんはメインを担当する日が本当に嫌だった。しかも油でヌルヌルになった手で細かい作業をしなければならなく、毎回かなり神経をすり減らしながら働いていた。

そしてある日の昼過ぎ、百恵ちゃんはこのメインコンベアぶっ壊してしまう。

 

次回は5月21日(木)午前8時更新予定‼︎

【田渕家登場人物紹介】

父 コージ:元陸上自衛隊幹部高卒ながら佐官まで登り詰めるも「髪型が奇抜すぎる」という理由で100年に1度あるかどうかの異動の内示取り消しをされた経験がある。現在は三度目の暖かな家庭を築いている。

・母 イクコ:美容師。美容室を自宅で開業するもパチンコにハマり開店休業状態を約20年続けた猛者。おそろしいほど料理が下手。ツーブロックにしたことがある。近況を知らせる連絡では年下のペンキ屋さんとお見合いをしたらしい。

・姉 タエ:無職。1度も定職に就いたことがなく家賃を滞納してはクビが回らなくなりお父さんに払ってもらいに帰ってく るお調子者。過去に大きな交通事故に遭いウン百万円もの保険金を手にするが全てホストクラブに費やした経験がある。

・エリー:田渕家の飼い犬。詐病のプロ。足をひきずったり弱ったふりをしては人間に甘やかしてもらう。動物病院で『至って健康』という診断をされるとそれまでの弱りっぷりを忘れ、凛々しい顔で帰ってくる。趣味は父の顔に噛みつくこと。オスだが思いつきでエリーと名付けられた。

・マイちゃん:母親同士が同じ美容師で仲が良く、物心がつく前から一緒にいた幼なじみ。かなりの美人だが偏差値は2くらいしかない。現在は3人の子供を産み働きながら育てているが一度も結婚したことはなく、更に子供たちは全員父親が違うという斬新なファミリーを築いている。そして最近ロシア人の子供を産んだばかり。

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