南4局。いよいよオーラスを迎えた。
まずは藤崎が連荘できるかどうか。上図の手格好を見るとさえなければあとは流れでいけそうだ。
トップ目の多井は必殺技を繰り出す。伝家の宝刀「配牌オリ」である。
「笑いたければ笑え、俺はこれで飯を食ってきた」と多井の(小声の)咆哮が聞こえてくるではないか。この局は魚谷と勝又に勝負を託した。実際、3着争いが佳境なため有効な戦術に見える。魚谷にサクっとアガってもらうのが理想だ。
その魚谷だが、様子が少し変だった。2枚目のをスルーして上図の手格好。堀プロも鳴かないとアガりが見えないといった解説をしていたが、鳴いたあとの景色を考えていたのだろう。鳴いてを切っていいものか、見合っているのだろうかと。ドラのをここまで残していたことから、2着を目指していたのではないかと推測する。
とはいえ巡目も深くなってきた。魚谷はそろそろテンパイを取らないとまずい(勝又がテンパイ、藤崎ノーテンでラスになるため)。それだけに打は「えっ」となった。リャンシャンテンになるからだ。
勝又の手はまだテンパイではないが、いまにも張れそうな状態だった。仮にを切っていたら勝又にチーテンを入れられていただろう。魚谷は自身の手の速度を落としたので、スピード勝負では勝又に分がある格好に。
魚谷はを落とし、完全に受けで勝負を託した。もう残りの巡目を考えるにテンパイは厳しい。ただ、は国士無双以外に当たらない牌なので切りそうなものだが、切らなかったのには「んっ」となった。細かくて恐縮だが……。
勝又は最後までこの形のイーシャンテンのままテンパイに届かず。あと一歩が足りなかった。
全員の手が伏せられて流局。藤崎も2着確保できたので満足の分かれだった。
もう一度見返しても、オーラスの魚谷の打ち方は興味深かった。適当に切るタイプの打ち手ではないのでそれぞれに何か理由があるはずだが、筆者の実力では見抜けず。おそらく相当な深謀遠慮があったのだろう。結果として魚谷は3着を死守。配牌に恵まれずツキのない展開が続いた中で大きな3着だった。
トップに立った男の頬は緩みっぱなしだった。画面越しにもうれしさがひしひしと伝わった。
「待たせたね」
ファンに向けての一言を、多井はこれまでの鬱憤を晴らすかのように、いつもの何倍もキザっぽく言ってみせた。
きっと多井のファンでない人も「ついにあの男がきちゃったか」とニンマリしたに違いない。そうそう、今年もこれが見たかった。Mリーグを盛り上げてくれる男の復活を、誰もが待ち望んでいたのである。