Mリーグの通算成績で多井に次ぐ圧倒的な強さを見せているのは、
KONAMI麻雀格闘倶楽部・佐々木寿人である。
その直線的なリーチ攻勢と他家をねじ伏せるようなツモアガリを量産する姿に、
人はいつしか畏敬を込めて「魔王」と呼ぶようになった。
しかし、寿人は打牌のスピードが極めて速い選手であり、
一見しただけでは、ただ手牌とツモが恵まれているだけなのではないか──?
という表層的な感想を、抱かせてしまうこともあるだろう。
今回は寿人のどういう部分が優れているのか、12月2日(金)の第一試合の戦いから追ってみたいと思う。
東2局0本場の親番、寿人は5巡目にしてこのような手牌だった。
ドラはで、とのイーシャンテン。
もちろん何も難しい形ではなく、誰しも特に迷うような手牌ではない。
しかしこの手牌が寿人を試すように結末を長引かせ、それが図らずも寿人の思考と強さを私たちに示してくれたのである。
この局は、7巡目に西家の赤坂ドリブンズ・丸山奏子がドラのをツモ切った。
周りから見ておそらく好形のイーシャンテン、そこそこの打点も確保されていることは予想できよう。
寿人は8巡目にを引いて目一杯。
丸山が早いのはわかっているが、無論こちらも引けるような手でもない。
双方張らぬまま、寿人の11巡目。
ツモでこうなった。
通常は、引きに備えての形はから切ることが多い。
しかしこの巡目になると、相手方の安全牌を残すことも重要になる。
丸山に対してはソーズの上はどれもわからない。
西家のセガサミーフェニックス・茅森早香はどうだ?
ションパイの東を切ってイーシャンテンかもしれぬ。
茅森に対してはが現物である。
よって寿人は切り。
さらにこの寿人の手は、を先に引いた場合はメンタンピン三色のテンパイになる。
つまりこれらを総合して、引きのメリットを上回る切りになると判断できるわけだ。
何度も言うが──、寿人はこれらがノータイムである。
傍目にはまるで考えているように見えない。
そして直後の12巡目にツモで、切り。
は場に4枚目であり、南家のTEAM雷電・瀬戸熊直樹の現物、かつ切りの丸山にも通るだろう。
元よりイーシャンテンの気配濃い丸山に対し、もうこの巡目では危険なソーズを厚く持ちにくいのである。
実際丸山はずっとソーズの上とのイーシャンテンである。
茅森にはの方が現物だが、やはり2軒に切れるの方を手に留めることにした。
13巡目──、
ツモである。
今度は切りで目一杯。
は場に1枚切れであるし、大体3メンチャンに構えることになりそうだが、
今度はピンズ部分は厚く持っても良い。
イーシャンテン気配の丸山、茅森に対してはが余っても大丈夫だからである。
つまり、目一杯に攻めたい手だとしてもソーズは厚く持ちにくいが、は持ってもいい。
この判断が、早くて優れているのが寿人なのである。
そしてこの切りの次巡──、
ツモでテンパイ、即リーチ。
を留めた結果、これを逃さなかった。
ここまでの道のりは、全てノータイムだ。
もちろんこの形で張ること自体は5巡目のイーシャンテンからそう大きな変化ではない。