事実その押しを見て、堀は後々魚谷に切れなくなるを逃がしていく。
「それから滝沢さんがチーして、3枚見えになります。でも魚谷さんからリーチ来て、
あれ、ペンあると思ってたけど、違ったかなと思っていました」
実際の説明は、もっともっと果てしなく長く、細かい。
まとめた私の言葉が足りず、堀の思考を伝えきれなかったとしたら申し訳ない、が。
人は、こんなに読めるものなのか。
私は同じ日本プロ麻雀協会にいて、もちろん堀が手牌読みや山読みに秀でているとは思っていたのだが、
私たち凡百の人間とは、ちょっと次元が違うのではないか。
序盤の切りだけで、があることを想定する。
もちろん他の様々な状況からそれは覆ったり保証されたりするもので確定ではないが、
堀の思考を紐解けば紐解くほど、私は恐ろしくなってしまった。
これは対局のほんの1場面の話なのである。
これ以外の全ての局で、堀は私たちの想像もつかない思考を重ね、手牌を読み続けているわけだ。
記事を書くのに迷った理由はいくつかある。
まずは自分の不勉強をさらすことへの抵抗。
もしかしたらこんなことは自然に意識している選手も何人もいるのかもしれない。
「大したことじゃない」と堀は笑うかもしれない。
そして他の選手が勝った試合で、ともすれば堀にとっては不本意な、
負け惜しみのような機会にその天才性を公にしてしまうことへの、申し訳なさである。
しかし、私はこの日ちょっと──
知っていたはずの同じ団体の選手が、同じ麻雀ではなく、
何か神々の遊びと言ってもいいような、違う次元で卓を見つめていることを知って。
どうしても、この興奮を伝えたくなったのである。
堀は、勝つことに飽いていた。
若くして麻雀で生きていくために上京し、
巷の雀荘で数多の打ち手の後ろ見をして、手牌を看破する力を練り上げていった。
戦いの舞台がMリーグに移り、強者たちに囲まれ、
その才能を持て余すことがなくなったなら、
堀にとっても、それに感動する私たちにとっても、本当に素晴らしいことではないかと思う。
日本プロ麻雀協会1期生。雀王戦A1リーグ所属。
麻雀コラムニスト。麻雀漫画原作者。「東大を出たけれど」など著書多数。
東大を出たけれどovertime (1) 電子・書籍ともに好評発売中
Twitter:@Suda_Yoshiki