堀としては、リードも十分なので危険牌を引いたらすぐにオリる想定だったはずだ。しかし、テンパイを取りきれてしまった。ここでテンパイ宣言をして親を続けて稼ぐのもいいし、ノーテンとして親を流してもいい。局を続ければ加点チャンスが増えるが、逆転されるリスクも高まる。
堀は伏せた。より確実にトップを取るためには、これが最善だろう。会場のプレーヤー解説の面々も、伏せる選択をする選手が大半だった。ただ、ここで堀が伏せた理由はもう一つある。
最終局は堀が自力で決着。序盤は多井が強さを見せた一戦だったが、南場の親番で手材料をうまく生かした堀が、サクラナイツのプレミアムナイト連勝を決めた。
退場時にダブルピースを決める堀。
これを見て盛り上がるプレミアムナイト会場・・・いや、この盛り上がりは、堀の勝利とダブルピースによるものだけではなかった。
実はこの日、22時45分までに第2試合が終わった場合は、試合を終えた選手がプレミアムナイト会場に戻ってくることになっていた。試合は順調に進み、22時過ぎには南場に突入。そこで日吉が口を滑らせる。
「長年のMリーグ実況経験から断言します! この試合は22時45分までに終わります! 終わらなかったら、今日は家まで歩いて帰ります!」
その後、堀の親が長引き、試合が終わったのは22時41分だった。会場の盛り上がりは、選手が戻ってくるのが確定したことへの、ファンの喜びもあったのだ。そして日吉のガッツポーズは、あわやの徒歩帰宅を回避したうれしさから出たものである。外はそこそこ強い雨が降っており、自宅までは結構遠いということで、日吉は徒歩帰宅なら悲惨な目にあっていた。
会場に戻り、主役は再びダブルピースを決める。
「僕が手を開けていたら、間違いなく間に合わなかったですね。それも考えて伏せました」
勝つだけでなく、ファンを喜ばせ、日吉をも救ったこの男。やはりただ者ではない。
さいたま市在住のフリーライター・麻雀ファン。2023年10月より株式会社竹書房所属。東京・飯田橋にあるセット雀荘「麻雀ロン」のオーナーである梶本琢程氏(麻雀解説者・Mリーグ審判)との縁をきっかけに、2019年から麻雀関連原稿の執筆を開始。「キンマweb」「近代麻雀」ではMリーグや麻雀最強戦の観戦記、取材・インタビュー記事などを多数手掛けている。渋谷ABEMAS・多井隆晴選手「必勝!麻雀実戦対局問題集」「麻雀無敗の手筋」「無敵の麻雀」、TEAM雷電・黒沢咲選手・U-NEXT Piratesの4選手の書籍構成やMリーグ公式ガイドブックの執筆協力など、多岐にわたって活動中。