岡田紗佳の振り上げた蟷螂(とうろう)の斧──その小さな抵抗がもたらした毒【須田良規のMリーグ2022-23セレクト・12月15日】

そして丸山の手にである。

これを、観る側が押せると言うのは簡単である。
そんなに国士なんて張るものじゃない、リーチすればいいのに──、と思った人も多いだろう。

しかし、岡田の捨て牌を受けている丸山の立場では、実際そう単純ではない。
チームはマイナス300オーバーの最下位。
ここでトップ目から万一にも役満放銃でハコラスを食うわけにはいかない。

ドリブンズは、ファイナルに進めなければメンバー入れ替えの崖っぷちなのである。
ここに私たちの想像する以上の葛藤がある。

岡田の撒いた国士の毒が、丸山の判断を鈍らせる。

厳密に丸山から状況を見ると、
岡田がドラ切りの以降、との手出しがあり、これは上家の瑠美の切りに合わせた形だ。
国士が危険な形まで揃っている進行とは言い難い。

ただそれは岡田の方でも放銃を避けながら幻影を張るためで、
岡田としても、決して簡単な局ではなかった。

また余談だが、東家のKONAMI麻雀格闘倶楽部・滝沢和典の淀みない切り、切りには、何か４枚目を持っている期待をしてもいいかもしれない。
このときは滝沢の手にがあった。
もちろん親は国士の可能性が潰れていなくても来るため過信はできないが、
４枚目の所在を知る一助にはなることがある。

岡田も、全員に国士を匂わせ続けることは難しい。滝沢には国士がないのが見えている。
しかし、、、、と丸山にアピールすることは、
この苦しい点棒状況、苦しい手牌で果たせる唯一の抵抗だった。
丸山のスタイルと、チーム状況、そして現状のトップ目という位置。
これらを汲んで岡田が丸山にもたらしたかすかな毒。

岡田が鋭く睨んで──、そして丸山は屈した。

カマキリが大きいものに鎌を必死に振り上げる姿を、蟷螂(とうろう)の斧という。
岡田の小さな小さな抵抗が──、丸山の足を止めさせた。

この半荘、岡田は一度の加点も叶わず、大きなラスになった。
誰が打ってもこれは避けられなかったかもしれない。
しかし、セミファイナルボーダーをおそらく競うドリブンズにこの１局、
テンパイを崩させることには成功した。

これから幾度となく訪れるであろうボーダー同士の決死の戦い。

たとえ手負いのどうにもならない状況でも、
岡田の振り上げたような蟷螂の斧が、
相手に掴みかかって、まとわりついて、離さないような足掻きが、
チームの未来を左右する一撃となるのかもしれない。

丸山はここから強い精神力で立ち向かえるか、それも楽しみな課題になる。
この試合、ラスだった岡田の最も印象に残った局が、今後の激戦をさらに予感させたのである。