トップへの道は長く険しく
それでも皆が待っててくれた
助けてくれた、だから
或世イヌは応えたい
私は或世イヌ(あるせ いぬ)というVtuberを知らなかった。
今年の3月末に行われた神域リーグドラフト会議。
チームアキレスの3人目に指名されたその名を……恥ずかしながら私は知らなかった。
私は去年から神域リーグ観戦記者を務めさせて頂いていることもあり、ドラフトにかかった多くの選手を知っていた。
それは今年からの参戦になった選手でも同じ。
しかしその中で、或世イヌという名は、初めて聞いたのだ。
そして迎えたデビュー戦。或世は惜しくも2着という結果に終わったものの。
その戦う姿はとても印象に残っている。
或世はまだ麻雀を初めて間もない。実際、このデビュー戦は避けられた放銃もいくつかあった。
しかし、それでも。或世はそんな中で必死に藻掻きながら。
「もっと出たかった人だっていっぱいいるんだからさ。 色んな人の想い背負ってやってんだ俺だって」
そう口にした。
その言葉を聞いた時から、私は或世イヌという打ち手に惹かれていた。
今日はデビュー戦となった第1節以来の、久しぶりの登板。
デビュー戦が終わってからの数か月、登板がない間も、或世は麻雀を打ち続けた。
事実、この第6節の試合が始まる直前まで、段位戦を打っていたほど。
努力を重ねた或世が、2回目の神域の舞台でどんな麻雀を見せてくれるのか。
第16試合
東家 松本吉弘 (チームヘラクレス)
南家 朝陽にいな(チームグラディウス)
西家 鈴木勝 (チームアトラス)
北家 或世イヌ (チームアキレス)
東1局
或世がこのをポンして、大きく息を吐いた。
現状、雀頭がなくポンしない人も多そうだが、この手はドラも赤もなくリーチに行けたとしても高くなるパターンが少ない。
或世が師と仰ぐのは同チームの白雪レイド。アガリを貪欲に狙う姿勢は、しっかりと引き継がれている。
これを朝陽からアガって、まずは1000点のスタート。
打点低くとも、緊張を和らげるという意味でもこのアガリは或世にとって大きい。
東2局に朝陽が松本から7700をアガってトップに立ち。
更に勝の2000点のアガリを挟んだ、東3局。
或世の配牌。第1節ではホンイツを狙う姿が多かった或世。
であればもちろん。
初手ドラの切り。
もうホンイツにしか行く気がないのであれば、より危ないドラのからというのは理に適っている。
もポンしてこれで手牌は全て字牌とソーズで埋まった。
ホンイツの良いところは、これで途中にリーチが入ったとしても、ある程度守備力が担保されていること。
実際、この後松本からのリーチに、或世はしっかりとオリていた。
松本のリーチを受けた後、最終盤で勝がテンパイを入れる。
出ていくのはだが……
ここは、無理をしない選択。打点がとても高いわけでもなく、待ちが優秀なわけでもない。
良い選択。
しかし次巡、まさかのツモ。
これでもう一度テンパイ。
勝は、今度はテンパイを取るためにを打つ選択。