真っ白なキャンバスに
描かれたのは、
”黒沢咲”という物語。
文・渡邉浩史郎【火曜臨時ライター】2024年12月3日
第2試合
東家:園田賢(赤坂ドリブンズ)
南家:佐々木寿人(KONAMI麻雀格闘倶楽部)
西家:黒沢咲(TEAM RAIDEN / 雷電)
北家:仲林圭(U-NEXT Pirates)
とかく現代は物語性が嫌われがちな時代という文言を見た。
もちろん物語そのものが嫌われているわけではない。嫌われているのはあくまで”物語性”だ。
”因縁の””宿命の”なんてものは流行らず、なんなら本人同士が否定し合うような時代の風潮。
”因果応報”なんてものは現実にはなく、そこにあるのはそれぞれ独立した結果に過ぎない。
麻雀だってそうだ。
局と局の間に繋がりはないとするのが今の主流。仮にあったとしても、それは人智の及ぶところではないのだから、言及するだけ無駄というか野暮。何なら麻雀にも流れにも、どちらに対しても冒涜的とまで言えるだろう。
こんな時代に点と点を結んで線を作り、あまつさえ絵を描いてしまう人がいる。
その姿を見て狂喜乱舞する人々がいる。その様は、傍から見れば狂気的なのかもしれない。
それでも私は、いや我々は、黒沢咲に魅せられてしまうのだ。
出だしは苦しい立ち上がりであった。園田の場を見た鋭い単騎が黒沢からの出和了り。7700は8000となる。
しかしそんな失点を軽々吹っ飛ばすのが私たちが今まで見てきた黒沢。
【東2局】持ってきたのは極上のセレブ配牌。第一ツモで軽くを引き入れると……
わずか2巡でこのリーチ。
本人も述べた通り、そこには技術も何もない。ただの神配牌・神ツモである。
ただし、そこに”黒沢咲”という物語が乗ってくるだけで、少なくとも応援するファンには違う深みが見えてくる。
”セレブ配牌・セレブツモ”
”特技:ドラ引き”
これは黒沢ならもちろん…… という期待感。
そしてそれらが現実のものになった時、”黒沢咲”という物語はさらに魅力を増してくるのだ。
【南2局】この配牌もそう。黒沢なら…… という期待を、
決して黒沢は裏切らない。チンイツを強く見ての切り。鳴かない黒沢だからこそ、視聴者は他の人では和了ることができないかもしれない九蓮宝燈まで夢を見ることができる。
和了り形に綺麗も汚いもないのは百も承知だが、それでも黒沢の和了り形には綺麗と言わせるだけの納得感がある。
それは「美しい絵を作りたい」という黒沢の意思そのものでもあるのだ。
もちろん、麻雀は「やりたい」だけで勝てるゲームではない。本人のやりたいやりたくないに関わらず、勝つために「やったほうがいいこと」も存在する。
黒沢が反省の弁を語ったのは【南4局】。
トップ目に立ったオーラス。役牌三種残しから、一枚切れながら自風のを重ねた。
その手組からして、形が整えば鳴く気だったのだろう。
しかし黒沢は二枚目のをスルーした。
確かに鳴いてアタマがないうえに愚形二つ残り。和了りトップとは言え、鳴くのは一瞬躊躇するような形だ。
本人は鳴かなきゃダメだったかなとの言を残したが……
どうせ鳴くなら一巡前、このチーからもあり得ただろう。三色の形を取りつつポンに備えられる上、瞬間の安全度と手牌進行度もポンより上がっている。
黒沢のキャンバスになかなか塗られない色であったがゆえに、一瞬引き出すのが遅れたか。