さいばら&山崎の でかぴん麻雀入門【第4回】
有り金勝負で脳汁全開
かつて東京中に違法カジノがあったころ、西原さんとぼくは白夜書房の末井さんを誘って、よく勝負にでかけました。
当時はカジノがありすぎて、仕事の打ち合わせ場所をカジノにしていたほど。
「西原さん、ここでお金を増やしながら、新連載の打ち合わせをしましょうか。まずは手堅くバンカーに大チップ10枚」
と末井さん。
「じゃ、あたしはプレイヤーに20枚」
これはバカラという種目で、客はバンカーとプレイヤーに分かれて戦います。
「プレーヤー・ウィン!」
「やたーっ」
ディーラーが西原さんの勝利を宣言します。
「あたしはそのまま、40枚のプッシュね」
いきなり元手と勝ち金を、そのまま次の賭け金にしてしまいました。
末井さんも西原さんに対抗して、さらにレートアップ。
脳汁全開で、車でいえばいきなりアクセルのベタ踏み状態です。
「よっしゃ、思ったとおり!」
この日は末井さんが快勝したので、寿司屋でおごってもらうことになりました。
「高い寿司だわ~。1つ五千円くらいについたから、思いっきり食ってやる」
損得が同じなら価値ある勝負を
今ではすっかり無くなった違法カジノですが、当時はバカラの他にポーカーやブラックジャックや、ルーレットなどもありました。
西原さんと末井さんのルーレットの賭け方には、それぞれの性格が出てました。
西原さんは、配当の高い張り方を好み、末井さんは配当が低い所に大きく賭けるという違いです。
西原さんは数字の1点張りから数点張り。
たとえば数字の1にチップ1枚賭けると、当たる確率は低いものの、もし当たれば36枚という大きな配当になります。
もちろん2枚張ればさらに2倍の配当で一攫千金も可能です。
ディーラーが白い小さな球をウィル(回転盤)にシュート。
「来い来い来い! 惜しい、隣の2だって」
実はウィルの中の1と2のある場所は、隣どころか対角線上に離れているので、惜しいかとうかは微妙。
しばらく1に張り続けていた西原さんですが、ちっとも当たらない。
「う~ん…」
腕組みをして悩んだすえに、さっきから多く出ている7に移動。見事に裏目の1が出ておりました。
一方の末井さん。
「さっきから赤が多い。勝負はツラ目(連なった目)が基本なので、赤に10枚」
見事的中。
ツラ目信仰の末井さんは、赤に10枚のチップを置いたまま、勝った10枚をEVEN(偶数)にも賭けます。
「ノーモア・ベット」
ディーラーの声がかかって、ボールは赤の7に落下。
「よっしゃー赤! あ、7って奇数だっけ?」
西原さんとぼくは大きくうなづきました。
偶数にあった末井さんのチップが、赤に移動しただけです。
「山ちゃん、今の賭け方はリスクヘッジになってたかな?」
ぼくは首を横に小さく振りました。
その後末井さんは、赤と偶数とスモールと、良く見たら黒にも、分散投資のリスクヘッジ?
ボールが落ちるたびに、末井さんのチップは大きく動いているんですが、実はほとんど自分のチップなのでした。
ルーレットのレイアウトは実によくできていて、どういう賭け方をしても期待される損得(期待値・実は損だけ)は常に一定になってます。
損得が同じなら、せめて価値ある賭け方をするのがギャンブラー。
以下極端にモデル化した例です。
全財産でチップを38枚を買って、たった1回の勝負で千枚以上にしたい。それしか価値がない。
この場合、目的を達成するためには、西原さんのような1点勝負しかないんです。
では、何回も賭けられる場合はどうか。たとえ倍率が低くても、連勝すれば目的達成のチャンスが生まれます。
それではどんな賭け方でも、幸運が続けばいいかというと、絶対ダメな賭け方もある。
それはレイアウト上の、0と00を含む38通りのすべての数字に1枚ずつ賭けること。
どの数字が出ても配当は36枚。2回目以降も、2枚分を補充すれば、毎回その分だけ確実に負けます。
実は、西原さんの賭け方も末井さんの賭け方でも、悲しいことに長い目で見るとこれと同じ。
それなのに、なぜ人はギャンブルをやるのか。
「人生はやったもん勝ち。おもしろいと思ったら、損得考えず突進じゃ」
西原さんのとくかくやってみる主義は、漫画家生活でも同じようです。
現地取材ものや実験ものも、モトはそのうち取れればいいし、取れなくてもいい。
取材過程そのものを楽しんでるんだし、そんな感じのようです。
ギャンブルやギャンブル的生活がおもしろいのは、予期せぬ結果と、そのバラツキの大きさにあるように思います。
38点張りには何の意外性もバラツキもありません。
「官僚はエリートらしいけど、ひとよりちょっと有利なだけの人生のどこがおもしろいだろ。男なら、漁師とかガリンペイロ(金鉱掘り)とかで、一発当てたらんかい!」
(文:山崎一夫/イラスト:西原理恵子■初出「近代麻雀」2010年7月15日号)
●西原理恵子公式HP「鳥頭の城」⇒ http://www.toriatama.net/
●山崎一夫のブログ・twitter・Facebook・HPは「麻雀たぬ」共通です。⇒ http://mj-tanu.com/
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