ひなたんの逆転勝利 セミファイナルを一緒に戦った小さな両手 Mリーグ2021-22コラム【文・藤原哲史】

ひなたんの逆転勝利
セミファイナルを
一緒に戦った小さな両手

文:藤原哲史(2022年4月12日)

田森さん(仮名)は都内に勤めるサラリーマンである。今年から小学生になる娘のかほこちゃん(仮名)と、妻の3人暮らしだ。

妻も娘も、2年前までは麻雀を一切知らなかった。最近は家族そろって、平日の夜にMリーグを見ることが日課となっている。
2年前、田森さんは渋谷ABEMASが開催した親子イベントに家族で参加した。自分も麻雀はまだまだ勉強中の身であるが、“家族で楽しめる麻雀イベント“に興味が湧いたのだ。

「うちの娘は、日向さんと誕生日が同じなんです」
田森さんは勇気を出して、日向藍子選手を呼び止めた。混雑しているイベント会場で、自分たちのためだけに長い時間を割いて貰うのは申し訳ない。けれど日向選手は、当時4歳であった娘をにっこりと抱き上げ、ABEMASの選手一人ひとりとゆっくり写真を撮る時間をくれた。知らない人だらけで緊張していた娘の顔がパッと明るくなり、日向選手の後ろをついてまわるようになった。

それ以来かほこちゃんは、テレビに映るひなたん(日向選手)の後ろ姿に、手を叩き応援するようになった。田森さんは自分の趣味を家族に押し付けていないか心配であったが、モニターの中で時折くるくる増えたり減ったりしている点数が一番多ければ勝ち、ということを理解したかほこちゃんは、Mリーグの試合を楽しそうに見てくれた。

「明日、イベントでABEMASのみんなに会うよ」
田森さんが娘に告げると、かほこちゃんは「待っててー」と言いながらおもちゃ箱から折り紙とシールを取り出し、せっせと何かを折りはじめた。
「おまもりつくるのー!みんな勝てますように、って!」
お気に入りの5色の折り紙を使い、かほこちゃんは丁寧に一人ひとりのおまもりを作った。選手は4人だけど、5つ目は? と聞くと、マネージャーさんのぶん!と元気よく返ってきて、田森さんは思わず感心してしまった。

翌日、田森さんはそれぞれの選手におまもりを手渡した。ファンから沢山の贈り物がある中で選手にこれを特別意識して貰うのは難しいだろうが、渡せたことに意味があったと感じた。

“とにかくラスを引かない麻雀”渋谷ABEMASは、今年度も危なげなくレギュラーシーズンを終え、セミファイナル進出を果たした。
迎えた4月4日のセミファイナル。かほこちゃんの大好きなひなたんは、第二試合に登板することが分かった。

かほこちゃんは、目を擦りながら妻の膝枕でひなたんを見つめる。時刻は21時を回っており、もうすぐ入学式のためあまり夜更かしはできないのだが、まあ今日くらいは良いだろう。

東2局、日向が沢崎からダマテンピンフをアガった。

沢崎はここから【4ソウ】をツモ切って放銃している。

日向が【4マン】切りテンパイ即リーチとしていれば、沢崎は恐らく【6ソウ】【9ソウ】待ちに受けた後に【1ソウ】【4ソウ】を入れ替えており、沢崎の親満貫とめくり合う未来があったが、慎重にダマテンとした日向に軍配が上がった。

2本場で1600点の収入。ちょっとでも、ひなたんの点数が増えたことに大喜びするかほこちゃん。裏側にある難しい技術とか、選択の優劣とか、そんなものは大人に任せておけばいいのだ。この笑顔を見るだけで、あの日ABEMASのイベントに娘を連れていって良かった。田森さんは心からそう思った。

しかし、そこから屈強な男たちによる乱撃が始まる。

東3局に勝又の一発ツモ、3000・6000。

東4局は朝倉の4000オール。

更には南1局、日向は朝倉の早いリーチに8000を打ちあげてしまう。

夜も更け、かほこちゃんが妻の膝の上で寝息をたてはじめた。お布団の準備を進めているうちに、みるみる日向の点棒が減っていく。日向は親番が残っているとはいえ、南2局でトップ目の朝倉と30200点差をつけられたラス目に落ちてしまった。

ここまでのトータルポイントは以下の通りである。
セミファイナルの残りは3日間、ここで風林火山やPiratesがトップとなり、ABEMASがラスを引いてしまうと、いよいよ最終日までファイナル進出チームが分からなくなる。

肩を落としかけていた南2局、日向は、安牌に窮した朝倉から8000をもぎ取った。

大丈夫、まだ戦える。そうして迎えた南3局、大事な日向の親番。難しい選択となった。

【白】か、【8ピン】【6ピン】を払うのか。

田森さんは長考する日向と娘の寝顔を交互に見て、いつぞやのおまもりを思い出していた。もちろん、祈りやおまもりの類いで牌の並び順が変わるとは思っていない。ただこのおまもりが、選手たちがいつも通りの実力を発揮できるほんの少しの後押しとなってくれれば。田森さんだけではない、ファンの応援はいつだってその気持ちが内側にあるのだ。

思案の末、日向は【8ピン】【6ピン】を払った。打【白】としてMAX打点を見ても良かったが、5800点もそこそこ大事な場面で、カン【7ピン】のチーテンよりも鳴きやすい【白】のポンテンを残すルートを選んだ。

↓その後もピンフor【白】残しの選択を迫られたが、

↓仕掛けを捨てて好形・高打点ルートを残す打【白】を選択し、

【3マン】を引き入れ、澄んだ声でリーチを宣言。

↓日向の好形・高得点を覚悟しながら朝倉から満貫確定の追いかけリーチが入るも、

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