黒沢咲が導き出したもの──AIには測れない愛情という期待値──【Mリーグ2026-27 観戦記 10/23 第2試合(麻雀2ch)】担当記者 小林正和

そして、こう続けている。

「私をワクワク・ドキドキさせてくれるのは、つねに目の前にある手牌なんです。」

「そして麻雀は芸術であり、人生そのもの。目先の損得だけが、人生の喜びや幸せに繋がるとも思っていません。」

大人になって、色々経験を重ねても。
黒沢咲は、まだ麻雀に恋をしているのである。

そんな可憐な少女は、【白】も【1マン】も切り切るつもりだったという事。目指すのは、綺麗なタンピンの手牌なのだから。

その先にある景色を思い描き、自分の麻雀を貫く。そんな黒沢の麻雀への向き合い方が、この一打に表れて、牌も想いに応えたのである。

思いがけない幸運を授かり、リーチへ。

そして、最後に見せた景色は、あまりにも鮮やかだった。

無条件の逆転トップとなる、得意のドラ【赤5ソウ】ツモ。

それは、あの日は、ツモれなかった【5ソウ】と同じであった。一つ違うとしたら、手牌には紅の華色が添えられていたこと。

そして、最後に待っていたのは


裏ドラ2枚というセレブなご褒美。

黒沢の口元が、かすかに緩んだように映る。
それは、いつもの柔らかな笑みが咲きほこれた瞬間でもあった──。

インタビューで語った言葉で、よくやくこの日、私が抱いていた黒沢の表情に対する謎が解けた。

それは…

昨日迎えたという、母への誕生日プレゼントだった。

プロとして歩む黒沢を、ずっと支えてくれた偉大なる大きな背中。負けたときには一緒に悔しがり、勝利を信じて応援してくれた。

そんな母へ、自分らしい麻雀で届けた花束だったのである。

そして、黒沢自身も。
自分の背中を見せたい存在がいた。

それは、愛してやまない一人娘だ。

「ママ、麻雀ごっこしようよ。」

ときどき、世界麻雀大会で表彰された母の姿をまねて、メダルを首にかけ、トロフィーを持ってお辞儀をするという。Mリーグの歴史とともに歩んできた娘が、今、黒沢咲という母の姿に憧れている。

母に支えられてきた黒沢が、今度は母となり、娘に背中を見せている。

娘が大人になったとき、この日のトップを覚えているかは分からない。

それでも、母へ届けたかった想いも、娘に見せたかった背中も、きっとこの一局に込められていただろう。

確率や期待値、AIが導き出す正解も、もちろん大切だ。けれど、愛情があるからこそ選べる一打も大切なのかもしれない。

数字にも、牌譜にも残らない。
そこには、誰かの心に残る確かな期待値があるのだから───。

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