【麻雀小説】中央線アンダードッグ 第37話:移籍【長村大】




中央線アンダードッグ

長村大

 

 

第37話

 

結果的に、オオトモの新団体には30人近くが集まった。シーズン途中での旗揚げとしては、予想外の大人数である。オオトモとしては自分を含めて10人程度でも集まれば、と思っていたに違いない。おれもその程度だろうと考えていた。

新団体の正式名称は「NPMA」となった。正直なところ、名前なんかただの記号、ついてりゃなんでもいいや、と思っていたのだが、いざ名前が決まってロゴができたりすると、急激にその存在を感じるようになってくる。おもしろいものだな、と思った。

オオトモはAリーグ選手への対局料の支払い、女流リーグの設立など、今までに例のない試みをいくつか行ったが、おれとしては「対局時のスーツ・ネクタイ着用」の決めをなくして欲しかった。何度でも言うが、こんなくだらない決めごとはない。個人的にも提案してみたのだが、「さすがにそれやると薄汚い恰好で来るやつがでてくるからなあ」といういつもの理由で実現しなかった。

ただし「まあでもオヤマダはテレビの対局でも私服だし、あまりメチャクチャじゃなければいいんじゃない?」というフワっとした言質を取ることができた。そのおかげで、最初の頃はスーツこそ着なかったもののとりあえずネクタイだけはしていたのだが、そのうちそれすらしなくなって、完全に好きな恰好で行くようになっていった。

当時おれはコム・デ・ギャルソンやヨージ、ヴィヴィアンウエストウッドといったモードっぽい服や、ゴシックファッションが好きだった。前者はまだイキった兄ちゃん、で済むが、後者は場合によってはほぼ女装であり、よくこんな恰好で麻雀打ってたな、と思う。

完全に「あまりメチャクチャじゃなければ」の拡大解釈で、あまりにもメチャクチャであった。若気の至りというやつかもしれないが、特に後悔はしていない。

しかし、おれがそのハチャメチャな恰好で会場をウロウロしている横で、スニーカーで来た新人が「ちゃんと革靴履いてこい」と怒られていたのはさすがに気まずかった。同じことを怒っているやつも新人も思っただろうが、ルールも図々しく破り続けているとそのうち「オヤマダだからしょうがない」になってくるのだ。そもそもスーツにスニーカー履いてくるやつが悪い、こういうやつがいるからネクタイ着用的決まりごとができるんだな、と思った。

 

 

嬉しかった話をしたい。

発足後すぐに、ゲームの仕事の話が来た。アーケードの通信対戦型麻雀ゲームで、NPMAのプロがキャラクターとして参戦するという、今現在まで続いている人気作だ。

これは後々までNPMAの根幹をなす事業となったが、個人的に大喜びした仕事である。

メーカーはS社であった、なにはともあれ、これがポイントなのだ。

おれは今はまったくやらなくなってしまったし、当時もゲーマーとは到底呼べないほどのへっぽこゲーマーであったが、それなりにゲーム好きではあった。特にS社は、時代を先取りしすぎたハード、尖ったゲームをリリースし続けており、我々の憧れのメーカーだったのだ。S社の据え置きハードは現在まですべて所有しており、箱まで保管している程度には好きであった。

そのS社のゲームに関われる、いや、関われるどころかキャラクターとして出演できるのだ。これはけっこう本気で、おれの人生で良かったと思えるくらいのできごとだった。

特にS社の開発部を訪れたときは感動した。写真の撮影やら声撮りやらでお邪魔したのである。ここであれやこれやの開発が行われていたのかと思い、しかしそんな場所に入ることができたのも人よりほんのちょっとだけ麻雀ができただけの理由だ。それだけで麻雀ありがとう、麻雀プロになって良かったと思えた瞬間であった。

おれは写真を撮られるのが嫌いなので、自分で自分の写真をほとんど持っていない。卒業アルバムも捨ててしまった。だが、このときに撮った粗い画像データだけは、自分の端末に保存してある。遺影にされるのはごめんだが、ほんの僅かなおれの誇りであり、大げさに言えば生きた証と言っていい。

 

まあおれの感傷は置いておくとして、NPMAはひとまず順調な船出だったと言えるだろう。麻雀もロクにできない小僧ども集めて、と揶揄されることもあったが、メディアに強いオオトモやバベルの協力もあり、発足当初から他団体に負けないくらいの露出をすることができていた。おれ個人としても、団体の看板選手の一人━━自分で言うのはまったくおこがましい限りだが━━として、また選手を扱うメディア側の人間としても、色々なことに手を出すことができた。

 

 

最近になって度々言われるのだが、おれがNPMAの選手として、あるいは麻雀プロとして活動していた期間は意外に短い。日本麻雀プロ協会に所属していたのが四年間と少し、NPMAにいた期間もだいたい同じようなものだろう。もう少し短いかもしれない。

 

誰が歌ったのであったか、あるいはそれは二度と戻らない美しい日であったのだろう。そして静かに心は離れていくのだ。

 

 

そう、おれのプロ活動期間は、意外に、短い。

 

 

第38話(8月14日)に続く。

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長村大
第11期麻雀最強位。1999年、当時流れ論が主流であった麻雀界に彗星のごとく現れ麻雀最強位になる。
最高位戦所属プロだったが現在はプロをやめている。著書に『真・デジタル』がある。
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