犯人は誰…⁉︎
その目的とは…⁉︎
北海道の真冬に起きた
自宅侵入事件
【百恵ちゃんのクズコラム】
VOL.21
二十歳の時、百恵ちゃんはボロアパートに住んでいた。2LDK駐車場付きで家賃三万円という破格のアパートだった。
入居する際、敷金や礼金なしの代わりに最初の清掃を自分でやるという条件で入居したのだが、あまりの汚さに清掃会社で働いている知り合いに清掃を頼むことにした。清掃の下見に来た知り合いが
「ごめん無理」
と言って土足で入ってきた程の汚さだった。
そんなボロアパートにいた期間は1年もなかったと思うが色々なことが起きた。
真冬にストーブがぶっ壊れてしまい大家さんに連絡するも「自分で直してくれ」と言われ、どうしていいかわからずそそまま放置し中古の小さいストーブを手に入れるがそれすらも壊れてしまい窮地に追い込まれた。
何重にも服を重ねて着て頭にはニット帽を被りコタツから頭だけ出して寝ていた。鼻の先の感覚がなくなるほど寒かったがそこは若さでカバーしていた。よく死ななかったな、と思う。
引っ越して半年ほど経った頃、百恵ちゃんの真上に知り合いのパリピカップルが引っ越してきた。それから同時に謎の騒音に悩まされることになったのだがそのカップルがSNSにアップした写真には立派なアンプが写っており絶望したが、気の弱い百恵ちゃんは抗議できず窓を開けて音量マックスでサザエさんを流すことしかできなかった。(ご近所の方々すみませんでした)
ボロアパートに対する不満が大きくなってきた頃、家の中のものが動いているという不穏な事が起きはじめていた。
ただ、いつも部屋が散らかっていた為あまり気にしていなかったのだが、ある日爪切りがキッチンに移動していたことがあった。日々変則的な行動をしている百恵ちゃんでもさすがに爪切りをキッチンに置いたりはしないし、自分の爪を見ても伸びたままで爪切りを使った形跡はなく誰かが侵入しているのではないかと疑いはじめた。
その後、家賃を入れていた銀行袋もなくなり、いよいよ警察に相談しようかと思ったが元来の無くし物癖と行動に移すめんどくささが勝ってしまい、放ったらかしにしていた。
そしてある日事件は起こる。
真冬の日だった。その日は19時頃に家を出たのだが遅刻ギリギリだったため鍵を掛けずに出発した。
自分で言うのもなんだが本当に危機感のない奴である。
午前1時頃しっかりと泥酔しながら帰宅した百恵ちゃんは陽気に家に入ろうとしたが玄関のドアが開かなかった。ドアが凍っているのかと思い、必死で開けようとしたがびくともしなかった。鍵がかかっていたのだ。
アルコールで知能指数が著しく低下した脳では状況が理解できなかった。
しかし途方に暮れている時間はなかった。北海道の吹雪の日の深夜に外にいるのは危険だ。しかもその日の百恵ちゃんは何故か網タイツを履いていて殆ど素足の様な状態だった。
とりあえずお姉ちゃんに電話をするとたまたま運良く起きていて当時のお姉ちゃんの旦那さんであるシャチョポンと一緒に現場に急行してくれた。
初めは半笑いで疑っていたシャチョポンだったが全力でドアを開けようとしても勿論ドアは開かず、緊急事態を察知しすぐに警察に行くこととなった。
おまわりさんはとても優しかった。
「ここ最近ではなんか変なことありましたか?」
と聞かれ、不審な物の移動やお金がなくなったことを泣きながら説明した。
ほとんど喋り尽くした後に、ある手紙が入っていたことを思い出した。
「今月は生活が苦しいため、家賃を早くお支払いいただけないでしょうか」
という大家さんからの手紙だった。
その話をするとその場の全員が
「絶対そいつじゃん」
という一体感に包まれた。百恵ちゃんだけがピンときていなかった。
朝になり、刑事さんと一緒に家に向かい同じアパートに住んでいる大家さんにマスターキーを借りて家に入った。その時刑事さんに「荒らされてますね」と言われたが元々散らかっていただけだったので正直に「中は特に変わっていないです」と言わされ、とても恥ずかしい思いをした。
そして同行してくれた刑事さんと一緒に確認をしたが鍵はやはり家の中にあった。つまり誰かが別な鍵を持っていてその人物が鍵を掛けたことは確実だった。が、その日無くなっていたものがなかったことや指紋が出なかったことなどからそのまま事件は捜査されることなく迷宮入りした。
この事件を受けてさすがにめんどくさがりな百恵ちゃんも引っ越すことを決意したが心配性なお姉ちゃんが一度お姉ちゃんの家に居候することを提案してくれた。
そうして百恵ちゃんはボロアパートを脱出し、2LDKの少し狭いアパートにお姉ちゃんとシャチョポンと生まれたての甥っ子と一緒に暮らすこととなる。
次回は3月19日(木)午前0時更新予定‼︎
【田渕家登場人物紹介】
・父 コージ:元陸上自衛隊幹部高卒ながら佐官まで登り詰めるも「髪型が奇抜すぎる」という理由で100年に1度あるかどうかの異動の内示取り消しをされた経験がある。現在は三度目の暖かな家庭を築いている。
・母 イクコ:美容師。美容室を自宅で開業するもパチンコにハマり開店休業状態を約20年続けた猛者。おそろしいほど料理が下手。ツーブロックにしたことがある。近況を知らせる連絡では年下のペンキ屋さんとお見合いをしたらしい。
・姉 タエ:無職。1度も定職に就いたことがなく家賃を滞納してはクビが回らなくなりお父さんに払ってもらいに帰ってく るお調子者。過去に大きな交通事故に遭いウン百万円もの保険金を手にするが全てホストクラブに費やした経験がある。
・エリー:田渕家の飼い犬。詐病のプロ。足をひきずったり弱ったふりをしては人間に甘やかしてもらう。動物病院で『至って健康』という診断をされるとそれまでの弱りっぷりを忘れ、凛々しい顔で帰ってくる。趣味は父の顔に噛みつくこと。オスだが思いつきでエリーと名付けられた。
・マイちゃん:母親同士が同じ美容師で仲が良く、物心がつく前から一緒にいた幼なじみ。かなりの美人だが偏差値は2くらいしかない。現在は3人の子供を産み働きながら育てているが一度も結婚したことはなく、更に子供たちは全員父親が違うという斬新なファミリーを築いている。そして最近ロシア人の子供を産んだばかり。
北海道出身。最高位戦日本プロ麻雀協会40期。座右の銘は「ビールは一日3リットルまで」。『近代麻雀』でも同コラムを連載中!