4巡目、多井が切りでテンパイの形となる。
多井にとってはこの試合で初めてとも言える早さで、待ちもリャンメンだ。
打点はないがこの手を真っすぐアガリに行き、素点を回復して試合を終わらせる選択もじゅうぶんあり得る。
しかし多井はソーズのメンツに手をかけ、テンパイを拒否した。
着順アップはハネ満直撃、倍満ツモ以上が必要だが、手牌からはそこまでたどり着ける可能性もほの見える。
それ以上に、この手をそのままアガるのは自身のプライドが許さない、というのが本音だったかもしれない。
6巡目、瀬戸熊の先制リーチ。
逆転トップには倍満ツモか満貫直撃だが、一発や裏ドラが絡めば条件はクリアだ。
多井は全部行く。
園田は現物を抜く。
石橋も戦う。
3者とも当然の判断だ。
ただ、園田もただ単にベタオリをしていたわけではなかった。
安パイを切りながらも、形を完全に崩しはしない。
12巡目、石橋が追っかけリーチ。
満貫ツモで園田を逆転できるが、これで瀬戸熊もハネ満ツモOKと条件が軽くなった。
おそらく、瀬戸熊の中ではこの展開も織り込み済みだっただろう。
さらに、なんと多井までがテンパイを入れる。
待ちは苦しいがホンイツに仕上がり、リーチしてツモれば倍満、石橋・瀬戸熊の二人をまとめてかわせる大物手だ。
ただ、ヤミテンでも石橋か瀬戸熊を直撃すれば3着に浮上できるだけに、ここはいったんのヤミテンとし、手変わりを待つ。
このテンパイ打牌を園田がチーして待ちテンパイを入れた。
ギリギリまで復活ルートを残したことによるものだ。
いよいよ、勝負はクライマックスを迎えた。
石橋はツモれない。
瀬戸熊もツモ切り。
多井もツモれず、手変わりもせず。
そして園田・・・
園田が鳴かなければ、多井がツモっていた牌だった。
Mリーグ史上屈指の名勝負を締めくくったのは、「魔術師」園田賢の粘りと仕掛けによるアガリだった。
この試合の勝者は園田だ。
ただ、石橋・瀬戸熊・多井の3選手もそれぞれの持ち味を存分に発揮し、見せ場を作った。
全員の個性が激しくぶつかり合ったからこその一戦であり、この試合を見たファンのみなさんも、きっと各者の麻雀を堪能したことと思う。
試合を熱く盛り上げつつ的確に状況を伝えてくれた実況・解説陣を含め、携わった全ての人にお礼を言いたい気分である。
麻雀の魅力の全てが詰まっていると言っても過言ではないかもしれない、極上の戦い。
これだから、Mリーグを見るのはやめらんねーぜ。
さいたま市在住のフリーライター・麻雀ファン。2023年10月より株式会社竹書房所属。東京・飯田橋にあるセット雀荘「麻雀ロン」のオーナーである梶本琢程氏(麻雀解説者・Mリーグ審判)との縁をきっかけに、2019年から麻雀関連原稿の執筆を開始。「キンマweb」「近代麻雀」ではMリーグや麻雀最強戦の観戦記、取材・インタビュー記事などを多数手掛けている。渋谷ABEMAS・多井隆晴選手「必勝!麻雀実戦対局問題集」「麻雀無敗の手筋」「無敵の麻雀」、TEAM雷電・黒沢咲選手・U-NEXT Piratesの4選手の書籍構成やMリーグ公式ガイドブックの執筆協力など、多岐にわたって活動中。