ここで満貫をアガれば2着まで狙えるようになるが、トップはかなり厳しくなる。
それに、次局にこれだけの手が来るかは分からない。
ならば目の前の材料をマックス打点に仕上げようと考えたか。
分かってはいても、なかなかできることではない。
この局は14巡目までかかってリーチにたどり着くが、待ちはシャンポンもカンチャンも純カラで流局。
この日の寿人はとにかくアガリが遠かった。
南4局1本場。
日向は満貫ツモで逆転トップ、手の中にはそれを実現できそうな材料がそろっている。
ここは切り。
を切ればリャンカンカンチャンのイーシャンテンだが、が2枚切れで心許ないことから、タンヤオでの進行を見る。
ドラ引きで鳴いても満貫の形になったが、まだ遠い。
それに、上家の亜樹が仕掛けられる牌を切ってくれるかも分からない。
15巡目、日向がツモで少考に入った。
自身の手には不要に見えるが、が4枚切れているのに生牌である。
巡目を考えても、どこかにトイツ以上で持たれている可能性はかなりありそうだ。
親の岡田は点数状況的に、門前テンパイならリーチに来るはず。
そう考えれば、岡田はまだノーテンの公算が高い。
は鳴かれる牌かもしれない。
加えて、を切って自身のアガリはどれくらい期待できるのか。
さまざまな要素を鑑みて、日向はメンツを崩す切りを選んだ。
実際、岡田はをポンすれば形式テンパイが取れるイーシャンテンだった。
日向がこれを抑え込んだことで岡田はテンパイできず、全員ノーテンで試合は終了した。
ABEMASとサクラナイツのポイント状況を考えれば、岡田より上の着順で試合を終わらせることには大きな価値がある。
卓内だけでなく卓外のことも踏まえて冷静に判断した、日向の守備意識の高さが光った一局だった。
風林火山は、セミファイナルで敗退した場合には次シーズンの選手入れ替えを明言している。
打ち手としては強烈なプレッシャーがかかる中での戦いとなるが、実力·実績·経験の全てを兼ね備えた3者だけに、動じることなく自身の麻雀を貫いてくれることだろう。
この試合は全9局と短く、派手な打ち合いなどもなかったが、亜樹·日向·寿人の3選手はその中でも随所にらしさを見せていた。
岡田にとってはスタッツを見ても分かるように難しい試合となったが、この一戦でためたフラストレーションを、次の戦いで爆発させてくれることを期待したい。
静かに始まったセミファイナルは、4月末まで続く。
5月の声を聞くとき、ファイナルに進んでいるのは果たしてどのチームだろうか。
さいたま市在住のフリーライター・麻雀ファン。2023年10月より株式会社竹書房所属。東京・飯田橋にあるセット雀荘「麻雀ロン」のオーナーである梶本琢程氏(麻雀解説者・Mリーグ審判)との縁をきっかけに、2019年から麻雀関連原稿の執筆を開始。「キンマweb」「近代麻雀」ではMリーグや麻雀最強戦の観戦記、取材・インタビュー記事などを多数手掛けている。渋谷ABEMAS・多井隆晴選手「必勝!麻雀実戦対局問題集」「麻雀無敗の手筋」「無敵の麻雀」、TEAM雷電・黒沢咲選手・U-NEXT Piratesの4選手の書籍構成やMリーグ公式ガイドブックの執筆協力など、多岐にわたって活動中。