巨大事故のリスク判定は
データがほとんど無い
桐野夏生さんの最新刊「バラカ」(集英社)は、5年前の大震災と原発事故を題材にした暗黒小説です。
桐野さんとは、小説家桐野夏生デビュー以来のお付き合いで、たまにペーソスというバンドのライブにご一緒したり、麻雀を打ったりしてます。
20年以上前、ペーソスの末井昭さん(当時は白夜書房)島本慶さん、そして私と桐野さんで、三軒茶屋の地下カジノに突撃したことがあります。
桐野さんの小説「OUT」執筆の取材です。
意気揚々と突撃したんですが、私たち男3人は見事に討ち死にいたしました。
一昨年、末井さんが「自殺」で講談社エッセイ賞を受賞した時のライブにも駆けつけてくれました。
「バラカ」では原発事故の被害が、実際よりも大きく描かれていますが、おそらく当時の桐野さんの実感だったのではないでしょうか。
私の実感もそれに近いです。
災害などの恐怖は増幅される傾向にあるのと、私は以前から事故を心配していたからです。
私が心配していたのは、主に浜岡原発でした。
やはり20年以上前のこと。
西原理恵子さんと一緒に、雑誌「SPA」の「できるかな」の取材で、静岡県の御前崎沖に釣りに行きました。
「船頭さん、海岸に見える白い大きな建物は何ですか?」
「浜岡原発です」
私は東京からこんなに近い所に原発があることをそれまで知らなかったので、ちょっと驚きました。
後で調べてみてさらに驚き、心配になってきました。
私は子供の頃からの地学ファンで、一般向けの科学雑誌「Newton」の創刊以来の読者です。
「Newton」では地震や火山の他に、原子力発電や確率・統計の基礎、偏西風、放射能が細胞を傷つける仕組みなども学びました。
「Newton」で一番心配されてたのは、浜岡原発を直撃する東海地震です。
「あれが事故るとかなりマズいな」 というのが私の当時の直観でした。
以来私の家族には次のように、告げてあります。
「万が一、浜岡原発が大事故を起こしたら、すぐに東京を出なさい。パニックになってからでは遅い」
「猫も連れてっていい?」
「パニック前ならいいけど、パニックになったらダメ」
実際には東日本大震災で、福島原発が大事故を起こしましたが、地震列島のどこで起こっても不思議ではありません。
巨大事故が起きると、当事者から正確な情報が出て来なくなることに戸惑いました。
テレビがまったく現状を報道し無くなった時が、私にとっては一番の恐怖でした。
「ついに総員退避かもしれない」
実際には「福島50」と呼ばれるたくさんの人たちが、命がけで事故の拡大を防いでくれました。
その貢献が無かったら、事故は桐野さんの小説のように、もっと被害が大きくなっていたかもしれません。
5年後の今、「福島50」のみなさんは、あまり話題にならなくなりました。
本来なら卓越した勇気を顕彰し、恩給のような特別年金を贈り、生涯に渡って医療費を肩代わりし、健康状態を追跡させて貰うべきだと思います。
巨大地震や噴火、巨大事故はデータが少ないので、どっちが有利かの判断は難しいですが、「最悪の場合を想定しておく」のは重要だと思います。
富士山が爆発しても
日本はすぐ復活できる
大震災よりももっと前には、長崎県島原半島の雲仙普賢岳で、噴火と火砕流が起こり大きな被害が出ました。
当時テレビ局の取材ヘリが、災害地区に入ったら、山の斜面全体の立木が全部燃えていました。
「火事です、山火事です!」
レポーターが連呼していましたが、私は映像を見て「違う、熱雲だ!」と声を上げました。
これは「Newton」の知識ではなく、福島県北塩原村の「磐梯山噴火記念館 」で得た知識です。
かつて磐梯山が噴火した時の状況が、ビデオが無い時代に、熱雲の絵として残されているんです。
通常山火事は、木々に火が順番に燃え移って行くので、燃えてる赤い部分が帯状になり、燃えてないエリアと燃えた後の黒いエリアに別れます。
ヘリからの映像は、広大なエリア全体が一発で燃え上がっており、熱雲以外にありません。
火砕流と言う専門用語は、この時から良く使われるようになりました。
地震も津波も噴火も、地学的には一体のものです。
私は温泉の取材もしてますが、もちろん火山と関係があります。
東京から近い富士山が属する富士火山帯は、箱根、大島、三宅島、最近話題になった西ノ島など、火山だらけです。
私はよく箱根の芦ノ湖の近くにある駒ケ岳に登って、すぐ目の前の富士山を眺めます。
太平洋の方に目を移すと、温泉だらけの伊豆半島、さらに伊豆七島もそうです。
なので、富士山が噴火しても、あまり驚きません。
もし噴火して東京まで火山灰に埋もれても、勇気ある人たちの活躍ですぐに復活できるでしょう。
世界中の人たちも必ず応援してくれるので大丈夫です。