少し前まではシャンポンリーチも辞さずの構えだったのかもしれないが、1枚切れになった。
そしてピンズが横に伸びたときには、の切り遅れが朝倉に間に合わなくなるかもしれない。
(1枚逃がしておくべきか)
本田はそう思って、を切った。
いわゆる、浮かせ打ちの格好である。
攻め手としては昔からある手筋ではあるが、現代では使いどころの限られた打ち方とされている。
しかし、おそらくもうシャンポンでのリーチはしないこと、
横に伸ばしてダマに構えられるピンフ手、三色手がここでは望ましいこと、
何よりも後々朝倉にが打てないことが、本田に安全牌を2種抱える一手を選ばせた。
これは、本田が培った競技麻雀のバランス、そして何よりも、
チームにトップを確実に持ち帰りたい、その一心がそうさせたのだと思う。
しかしその次巡──、
本田の手に訪れたのは、本田が最も見たくない牌であった。
本田はこれで、最速の待ちリーチを逃す。
この局はそれから全員が仕掛け出して、全員テンパイの流局となる。
東家の朝倉は鳴きが入らなければをすぐに掴んでいたため、
本田のリーチなら、朝倉の連荘は難しかったと思われる。
そして親権の続いた朝倉が、1本場で悠々の4000オールツモを果たしてしまう。
本田にとっては、悪夢となった親連荘。
この半荘はそのまま朝倉が逃げ切り──、雷電は2着に終わったのである。
「あの局を、やり直したい」
試合後のインタビューで、本田はそう絞り出した。
これは観戦記者としての私見になるが──、
周囲が選手の誤打や失着を忖度して、擁護するようなことがあってはならないと思う。
この切りも、自身が対局前から気をつけていたように、
リードから縮こまったが故の、痛恨の未来を生んでしまったと世間には映るだろう。
擁護はしない。
しかし──、
気持ちは痛いほど、わかるのだ。
これは、本田が朝倉の手と危険スジを正確に見据えて恐れていた結果であるし、
チームがどん底に辛い状況で、どうしても、このトップ目からの切り遅れを避けたかったのが伝わるからだ。
片道約3時間、交通費は往復約3万円。
富山にいる選手が、東京で対局のたびに必要なコストである。
この10年、本田が費やしてきた熱意を、どうしても私はこの舞台でもっと見たいと思ってしまう。
これからMリーグは否応なく佳境に入り、このような選択は何度も突きつけられる。
そのとき本田が、今日とは違う最高のタイミングで打牌を選び、
今日より最高の結果をチームに持ち帰られるようになったなら、
北陸から来たルーキーは、本当に雷電にとってかけがえのない選手になると思う。
日本プロ麻雀協会1期生。雀王戦A1リーグ所属。
麻雀コラムニスト。麻雀漫画原作者。「東大を出たけれど」など著書多数。
東大を出たけれどovertime (1) 電子・書籍ともに好評発売中
Twitter:@Suda_Yoshiki