しかし、ここで切りが選べると。
待ち。
なんと、どちらでアガってもピンフイーペーコー赤ドラドラで三倍満になる。
これで、魚谷から三倍満の直撃だ!
──まあ。
現実的に考えて、そうはならないだろう。
ここまで派手な切り飛ばしをしては、さすがに魚谷も、マンズは切らない。
だいたい園田にもマンズは通っていないし、メンチンなら素点がもったいな過ぎる。
ドリブンズの20pを削るために、ハネマン倍満クラスを差す必要はない。
しかし、私はちょっと意地悪な未来も期待してしまう。
あれだけ差し込みにナイーブで、最悪の結果になることを絶対避けたいと考えている魚谷。
この半荘は最高の内容だった。
素晴らしい攻撃センスで、高々と点棒を積み上げて、最後に臨んだオーラスだった。
そこでふっとアシスト気味に下ろした牌で、
もし三倍満の直撃を食らったら──。
魚谷が実際に持っていたやで、
手負いと言ってもいい土壇場の雷電に、
喉笛を噛みちぎられるような一撃を食らったら──。
それはもう本当に立ち直れないんじゃないか。
こんなことを思って魚谷には申し訳ないし、彼女を苦しめたいわけでもないが、
私はそんな、強者の魂を削られるような困難を見たい、人でなしなのである。
結末は、おそらくだいたいが雷電の2着だったと思う。
そこに至るルートは幾つもあれど、
多少の蛇行は、結局魚谷が修正しにかかったであろう。
しかし、かすかに引かれた悪魔の道筋が。
魚谷のことを口を開けてひっそりと待ち構えていたことは、
このドラマのあってはならない結末として、
心に留めておこうと思う。
麻雀は、本当に予想もつかない結末の可能性を、常に秘めた恐ろしいゲームなのかもしれない。
日本プロ麻雀協会1期生。雀王戦A1リーグ所属。
麻雀コラムニスト。麻雀漫画原作者。「東大を出たけれど」など著書多数。
東大を出たけれどovertime (1) 電子・書籍ともに好評発売中
Twitter:@Suda_Yoshiki