最強戦では、アガリ形をカメラに収めるために、終局後、カメラマンの合図があるまで形を崩してはならない決まりになっている。
そして、迎えた親番、なぜか一本場を出す。
新人がやれば、緊張してるや昂ってるなんて笑い話のように聞こえるかもしれないが、今まで何度もこう言った舞台で戦ってきている黒沢。
小島先生の名前が付いた今回、特に勝ちたい気持ちが全身から溢れ出してしまったのだろう。
そんな気持ちに牌が応える。
東4局、テンパイ一番乗りは萩原。
タンヤオ、三色、ドラ。トップ目の親、黒沢の現物であり、打点も8000と充分なのでヤミテンに構える。
一気通貫狙いから、678の三色、そして最終的にタンピンドラへ、捨て牌と状況に敏感に反応しながら仕上げた黒沢がまずはリーチ。
同巡にチートイツテンパイのルミは単騎で追いかけリーチ。
こうなると萩原もヤミテンの意味がなくなり、ツモ切りリーチと3者がぶつかる。
ここがこの半荘の山場と誰もが分かっている。
黒沢のアガリはかなり大きなアドバンテージとなり、ルミ・萩原のアガリは黒沢への挑戦権となる。
それだけに、独特の緊迫した雰囲気が卓上を包む。
決着は意外に早くついた。
先程の力強いツモとは裏腹に、一仕事終えたような雰囲気が印象的なアガリ。
裏ドラ1枚乗せて6000オール。
その後もヒヤリとするような場面は何度か訪れた。
まずは6000オールの次局。
4000-8000の可能性がある超勝負手も不発。
そして圧巻が南1局2本場。
ここで黒沢のテーマを見てみよう。オーラスは自身が親なので、ノーテンで伏せるだけの1局勝負。
これだけの大量リードがあるので、後は3人の親番をどう落とすかの勝負である。
よくあるのが、リードが大き過ぎて常にベタオリをしているうちに差が詰まり、焦りから放銃をして負けるパターン。
予選のインタビューでも触れられていたが、黒沢としてはこれだけは避けたい所。
過去の小島先生の対局でも、リードしている場面でも戦っている姿を何度も見ている。
しかしである。やっぱり直撃は避けたいし、リスクはなるべく取りたくないのが人間心理ではないか?
テンパイ1番乗りは黒沢。ドラドラではあるが役なし。
親番ルミの進行もまだ不透明で、心中するほどのリスクは取りたくないとヤミテンを選択。
すると、親のルミがをポン。
これを受けた黒沢がツモ切りリーチに出る。
え?! 理屈は分かる。
ルミは落とせない親番にもかかわらず、東は2鳴きでドラが自分に2枚あることから、打点や形に不満があることが想定され、放銃してもMAX5800なのでリスクが取りやすいと言う理屈だ。
だけど、だけどだ。仮に5800だったとしても、直撃なら40Pの差が一気に30P以下、そうなればルミはもちろん、萩原、滝沢だって親番で4000オールクラスのアガリが出ればかなり現実的な条件が出来てしまう。
これはなかなか行けるリーチではない気がする。
そして、萩原。
もう何回も見た三色のリーチ。
萩原の凄さは手役を落とさないこと。
常に手役の種を意識して手組みをするので、捨て牌に三色が並ぶようなことはない。
ルミのポンテンも、萩原の手組みも叶わず、黒沢が優勝を決定付けるアガリとなった。
その後も、萩原の三色を追う手順、ノーテンの親、萩原にテンパイを取らせるために鳴かせる牌を抜いたルミのプレー、そしてルミの国士無双とたびたび見せ場はあったが盤石の黒沢の牙城は崩せず。
ミスター麻雀カップ、優勝は黒沢咲となった。
ファイナルでもミスターの名前を背負っての活躍、期待したい。
2018年、小島武夫永眠。ここで小島武夫の物語は幕を閉じた。
しかし、今日の対局を見ていただいた方は分かると思うが、「後に続く者」に受け継がれた小島武夫のイズムをしっかりと感じる。
先生、安心して下さい。まだまだ小島先生には及ばないかもしれませんが、若手もその背中を追いかけてしっかりと頑張っています。
小島先生からは麻雀はもちろん、それ以外にも色々なことを教えてもらった。