条件は満貫出アガリだけじゃない。3900直撃だってある。
鳴いたら3900の直撃に打ってしまう可能性が上がるだけ。そのリスクよりも、多井は守備に回ることを選んだのだ。
内川が作り切った。
内川にだって意地がある。魂の一打という意味で、全く引けを取っていない。
残された時間はあと5巡。
ツモって裏が1枚乗れば内川の勝ちだ。
これが怖い。地球人打ち手代表の私は、これに震えてしまう。
内川が一回一回ツモ動作に入る度に、怯えてしまう。
けれど多井は一切表情を変えることは無い。
ツモれるものならツモってみろ。そう言っているかのようだ。
誰よりも強いと言われる多井は、誰よりも麻雀に向き合ってきた。
だから知っている。麻雀の面白さも、そして同時に併せ持つ、残酷さも。
全ての対局が、劇的な逆転で終わるわけではない。
ほとんどの対局は、残酷なまでに現実的で、あくまで確率の中で決着する。
魅せることだけが、泥臭くアガリにむかうことだけが、プロの仕事じゃない。
これは最速最強多井が魅せた、いわば魂のスルーなのだ。
以上の結果から、決勝卓進出は
の2名になった。
対局前インタビューで、三浦は言っていた。
「自分だって命賭けて麻雀を打っているんだ」と。
ただ、それでも届かなかった。
決勝へ進出した2人の背中から、こんな声が聞こえてくるようだ。
「そんなの俺らだって、何年も前から賭けてんだよ」と。
──だからこそ、麻雀を愛する多くの人は、彼らの闘牌を見たいと心から願うのだろう。
最高位戦日本プロ麻雀協会47期前期入会。麻雀プロ兼作家。
麻雀の面白さと、リアルな熱量を多くの人に伝えるため幅広く活動中。
Twitter:@Kotetsu_0924