
亜樹はここから上家の切ったを合わせた。
ワンチャンスのを切ってタンヤオを付ける選択も有力だろう。
さほど迷わずに切ったところを見ると、これは亜樹のスタイルなのだ。
亜樹も村上同様にトップがない。
手が入らないまま点棒を削られていく展開が多く、ここまでの成績-207.4ptは32人中32位という不名誉な位置である。
たかだか6戦での結果ではあるものの、やはり周りからは不調と見られてしまう。
しかし、当の本人は一切ブレていなかった。

どれだけ不遇に見舞われようと、自分を見失ってはいけない。
このチャンス手を確実に勝負の舞台に上げるのが私のスタイル。

「迷わない方から入ってくれてよかった」
このとき亜樹の目からは4枚見えていた。
をツモっていたら
を切って
に受ける予定だったという。

日向と亜樹に挟まれた格好になる小林からが出てロン。
裏ドラをめくると残したが乗る。
リーチ・ピンフ・ドラ2・裏2の12000点のアガリとなった。

実はこの日が亜樹のバースデー、しかも100回目の登板となるメモリアルな一日である。
迷わない方から入ったこと、アガれたこと、裏ドラが2枚乗ったこと… ここまで折れずに耐えてきた亜樹に、プレゼントのようなアガリをものにした。
勇気か無謀か
東3局、それでも勢いの止まらない日向がちょっとした罠を施す。

この大物手を1巡回し、ツモ切りリーチを打ったのだ!
このツモ切りリーチを受け、周りは一気にスローペースになる。
テンパイを入れていた村上も…

(なんだあのリーチは…)
ツモ切りリーチにはいろんなケースがあるが、その中でも
・待ちが悪くて躊躇していたケース
・状況が変わってリーチにいったケース
と相手が読んでくれれば、今回の日向のような
・ダマテンで打点十分なケース
が、さらに高打点となってアガれることがある。
亜樹の手も止まる。

ダブ・ドラ2のダメ押しになる親のマンガンテンパイだが、この
を一発で切っていいものか。

これが25000点のフラットな状況ならすっと押していたと思う。
リードがあるからこそ、難しくなるのだ。
ここで押すのは、勇気か無謀か。
ここで引くのは、我慢なのか弱気なのか。
日向さんの手牌はなんなのか… いつもの私はどうしてた?
亜樹の自問自答に、マイナスしている者の苦しみが伝わってくる。
こうして長考に沈んだ後、亜樹は…


唇を噛み締めてを押した。
この後も押していくが、最後のツモで無筋を掴んでオリ、流局となった。
なんてことない一局なのだが、女性選手が苦しんでいる姿を見ていつも思う。
もし麻雀プロではなく普通の道を選んでいたら、人生をかけて人と競い合うことなんてなかったはずだ。
麻雀プロであることで苦しむことは多々ある。
しかしそれ以上に戦いの場に身を置いていること自体に幸せを感じている人は多い。
苦楽を共にする仲間のいるMリーグではその幸せの気持ちはさらに大きくなるのかもしれない。私が打つことで誰かの力になれる。私が勝つことで一緒に喜んでくれる。
何十年前の今日、亜樹がもう一度生まれ変わったとしても、また麻雀プロになり戦いの場に身を置くのだろうな、とそんな事を考えた。
東4局は村上が1300・2600のツモアガリ。