TEAM雷電・黒沢咲があまり鳴かないのは、論を俟(ま)たない。
「鳴くとうまくいかないんですよね」
そんな本人の談はよく耳にする。
つまり、仕掛けて手牌が限定された形のときに、
他家に対する対応を迫られたり、ツモ牌に応じて手牌を動かしたりすることが、合わないと。
これが2000や3900といった点数で押し引き判断が難しい状況になると、なおさらである。
これだけ聞けば、ともすれば黒沢の弱点であるとも言える。
中打点での捌きが必要な局もあるので、アガリを取れずに損をしたシーンも、過去なくはない。
しかし、黒沢はそれを自己で意識しているからこそ、
14枚での押し引き判断、手牌の動かし方を誤らぬよう、麻雀をそちらに特化している印象がある。
ベタオリ時も非常に丁寧で、よくこの牌打たなかったな──、と感心させられることも多々ある。
手牌を短くしないことを、うまく生かしているのだと思う。
そして、仕掛けるならばまず確実なマンガン以上が見込める形にすることを本人の中で基準にしている。
1月2日(月)の第2試合から、黒沢の鳴かなかった手とそうでない手を、
比較して見てみよう。
東2局3本場の、かなり話題になったドラトイツでのスルーの局面。
上家の切ったを黒沢は鳴かなかった。
私はからというよりも、1巡目に上家の切ったからもう鳴いていそうだ。
ピンズは変化が利く形とはいえ、どうせを鳴くならもうそのときにはのシャンポンでテンパイしている方がいい。
黒沢は、当然は鳴かず、は2枚とも鳴かず。
鳴いた後のネックはやはりとだ。
こうして全体図を見ると──、ももやはり簡単に出るような印象はちょっと持てない。
この局の結果はメンゼンを貫いた黒沢の倍満ツモアガリになるのだが、
これが称えられる一方で、やや疑問だと唱える声ももちろんある。
確かに、安め3900高め8000のシャンポン最速テンパイを目指さないのは不思議に映るかもしれない。
ポン チー ドラこれで特に不満はない、そう思う打ち手も多いのではないだろうか。
ただ実際──、これがそんなにアガれるか? と冷静に考えてみると、そう自信があるとは言い難い。
また、普段多くの人が打っているフィールドとMリーグのフィールドではどうしても違いがある。
全体の放銃率は極端に低く、また年に20回程度の登板で試行する局数というのもやたら少ない。
私たちの平素打つような、不特定多数の様々な打ち手と数多く対戦するような環境であれば、一局に対する濃度というものは希薄になる。
この局アガれなくても数打てば当たるんじゃないか、という感覚は当然ある。
この手は、シャンポン片割れのドラでやっとマンガンという手で、黒沢にとっては仕掛けの基準に満たないのだろう。
確かに、赤が3枚見えていない他家全員メンゼンという条件下で、
押し引きなど介在しない、このままほとんどの牌をツモ切る状況が果たして本当に有利なのか、断定はできない。
私個人は、仕掛けてこういうテンパイを最速で取ることは厭わないタイプであるし、
似たような人も当然たくさんいると思う。
ただこの特殊なフィールドで、この程度の打点、テンパイ形で押さざるを得ないことが、
その後の展開含めて望ましいかどうかは、一概に言えない。
黒沢にとっては──、見合わないのである。
リーチの黒沢がをツモって裏3の倍満。これが私なら、1000・2000だ。
ドラのは山にはなく、もラス牌。
ドラシャンポンなど元より厳しい。ならばそれをツモった同じ僥倖なら──、これくらい高い方が夢がある。
では、黒沢の仕掛けと手組というのも見てみよう。
東4局で東家。ドラはでこの手、何を切るだろうか。
周囲の有識者に聞いた限りでは、まず全員がだった。
カンがよく見えるのと、2軒への安全牌でを残しながらの瞬間6ブロック進行だ。
もちろん発中は鳴くし、今カンが出たら鳴いてソーズを切って行くだろう。
しかし黒沢が切ったのは、。
私は最初、これも極力鳴かない、というか鳴きにくい形を追ったのかなと思った。
はともかく、切りでカンが出たらさすがに鳴かざるを得ない。
意図的に手牌を鳴きにくい方向にして、普段のスタイルを作っているのかとさえ感じていた。
ところが黒沢に聞くとそれは全く予想と違っていて、黒沢は「鳴いてマンガン」の構想を持っていたのだという。