こうなっていれば次のもポンしやすく、ピンズの場況がいいのでおそらくポンしてソーズ払いにしていたと。
これならばマンガンルートが明確に見えて動きやすい。
もし最初に切りだと、
こうなっていて、ポンと行くには微妙な形だ。
つまりこの手は、は当然仕掛けるものとして、さらに鳴くならばマンガンを確実に見込める形にしたかったのである。
この局は、ポンからドラを重ねた後のポンで、12000の出アガリ。
東2局の倍満に続いての加点で、トップを盤石のものにしたのである。
黒沢のことは10年以上──、Mリーグが始まるずっと前から知っているのだが、元よりこういうタイプというわけではなかったと思う。
当時一般企業に勤めながら麻雀店に通い詰め、スピード感のある巷のストリート麻雀にも長年接してきていた打ち手である。
それが、「鳴くならほぼ確定的なマンガン」「そうでないなら14枚で押し引きを丁寧に」という基準を自身で設けて、
それに従って揺れない麻雀を作り上げてきたのは、黒沢の記憶と経験、そして性格が澱をなして土台を築いてきたからに他ならない。
大らかで、ゆとりのある黒沢の精神性に、このスタイルは合っていた。
もちろん私を含め、それぞれの人間に異なる基準が存在する。
弱点もあれば得意な部分もあって、性格や好み、過去の経験から水に合った打ち方があるはずだ。
多くの人にとっての土台では最初の手牌はを鳴くし、
次の手牌ではを切るのかもしれない。
黒沢の人生では、そうでなかったのだ。
そしてそれが、Mリーグという舞台では素晴らしい成績に結びついている。
昨年度シーズンの黒沢は、チームポイントが絶望的にマイナスしていたために厳しい勝負を何度も強いられていて、見ていて心苦しい局面が多かった。
いつもは押すような、仕掛けるような局面ではなくとも、トップ量産が必須な状況であるために、らしくない放銃に見舞われることがよくあった。
Mリーグ各シーズンで唯一のマイナスイヤーになった背景はそこにある。
誰が悪いというわけではない。チーム戦というのはそういうものだろう。
それでも当然黒沢は不平不満をもらすことはただの一度もなかった。
受け入れて、玉砕するよりなかった。
だからこそ、今期はチームメイトの活躍のおかげもあり、黒沢本来の良さが遺憾なく発揮されていることが本当によかった気がする。
黒沢は自身を分析し、ただ鳴かないのではない、明確なスタイルを築き上げている。
その優雅な麻雀と姿勢のもたらす安定感が──、弱点などではもちろんない、誰とも違う黒沢の強さとなっているのだと思う。
日本プロ麻雀協会1期生。雀王戦A1リーグ所属。
麻雀コラムニスト。麻雀漫画原作者。「東大を出たけれど」など著書多数。
東大を出たけれどovertime (1) 電子・書籍ともに好評発売中
Twitter:@Suda_Yoshiki