しかし、すぐにアガれそうに見えた待ちが場に放たれず、そうこうしている内に松ヶ瀬がテンパイ。赤が1枚あるので、ツモれば1000-2000は1200-2200、和久津と5600点変わるので、0.3ポイント逆転する。カンチャン待ちか、シャンポン待ちか。
松ヶ瀬はシャンポン待ちリーチを選択。単純な見た目枚数はもとより、マンズの切れ具合から見てマンズに分があると見たか。実際に、シャンポン待ちのほうが山の残り枚数は1枚多かった。
和久津が一発目に引いてきたのは、。 ソーズの上目を全く切っていない松ヶ瀬に対し、とてもじゃないが切れる牌ではない。そもそも、和久津は流局ならば勝ちだ。
和久津は現物を抜いた。これで勝てる、はずだった。
は通った、結果的に。
松ヶ瀬はもツモ切った。を、そしてその次につかんだマンズも押せていれば、そこで和久津の勝ちだった。だが、あと1回のツモで松ヶ瀬がアガれなくても和久津は勝てる。圧倒的優位は変わらない。
それでも、優位は勝利とイコールではない。ましてや相手は、約170人のなかからたった一つの椅子を勝ち取った男、松ヶ瀬隆弥。その剛腕は、ここでも健在だった。
和久津の悲痛な表情が、あまり強く印象に残った。
理で言えば、は押すべき牌ではないし、選択に悔いはないかもしれないが、負けた事実が重くのしかかり、悔しさが胸の内に渦巻いていることは、想像に難くない。
しかし、それでも和久津は、笑って舞台を去った。その振る舞いもまた、和久津が今だトッププロであり続けていることの証明であるように思えた。
B卓は忍田が連勝で首位通過。2位の松ヶ瀬と3位の和久津の差は0.3ポイント、ほんのわずかだった。しかしそれが途方もなく大きな隔たりとなるのがトーナメント、勝負の世界なのである。
さいたま市在住のフリーライター・麻雀ファン。2023年10月より株式会社竹書房所属。東京・飯田橋にあるセット雀荘「麻雀ロン」のオーナーである梶本琢程氏(麻雀解説者・Mリーグ審判)との縁をきっかけに、2019年から麻雀関連原稿の執筆を開始。「キンマweb」「近代麻雀」ではMリーグや麻雀最強戦の観戦記、取材・インタビュー記事などを多数手掛けている。渋谷ABEMAS・多井隆晴選手「必勝!麻雀実戦対局問題集」「麻雀無敗の手筋」「無敵の麻雀」、TEAM雷電・黒沢咲選手・U-NEXT Piratesの4選手の書籍構成やMリーグ公式ガイドブックの執筆協力など、多岐にわたって活動中。