中張牌をかき集め、テンパイを迎えたのが10巡目。
亜樹「これじゃない!」
解説の亜樹が嘆く。
このままではリーチ・ツモ・タンヤオで、一発か裏ドラが必要なのだが
が3枚見え。
これでは一発ツモの期待も薄めだし、3枚使いの牌が2種類あって裏ドラが乗りにくい形である。
そこでまずと払っていく手がある。
マンズで頭を作ってツモ、もしくは先にがきたら5面張の最強位確定ゴリラダンクリーチが打てる。
他にもテンパイを取ってダマ、という手もある。
こちらもドラとの振り替わりやの重なりでドラ受けを作ってリーチ、という選択だ。
誰かのリーチや暗カンがあったり終盤など、そのまま状況に合わせたリーチを打てるのも良い。
桑田が最後の思案に暮れる。
解説陣を含むほとんどの打ち手がを切っていくと語った。
でも私には桑田の心情が本当によく伝わってくる。
だって、次のツモにがいたら即優勝なのだ。
条件があるとはいえ、喉から手が出るほど欲しかった栄冠を目の前に置かれ、どうしてテンパイが外せるというのか。
桑田は
リーチを打った。一発は消えない。
丸太ん棒のように太い腕を牌山に手を伸ばした次の瞬間だった。
香川からきた純朴な青年は、このファイナルテーブルでもただただ純粋に牌と向き合った。
応援してくれるお客さんを通じて、普段の桑田の優しい性格が伝わってくる。
最後も
「応援してくれる方のお陰でをツモらせてもらえました」
と桑田は静かにを手元に置いた。
新最強位決定の瞬間である。
それまで険しい表情で牌をバチンバチン叩いていた和久津は
「ツモが太えよ、新最強位」
と言わんばかりに笑った。
本当に和久津は、入場シーンから鬼気迫る闘牌まで、この半荘通して一番かっこよかった。
一方、あまりいいところのなかった大介は
「自分も若いときは桑田さんのように、手牌に素直にのびのびと打っていたのかなぁ。また自分の麻雀を見つめ直す良い機会になりました」
と勝者を称えた。
そしてたろうも
「最後にくだらないチーをしたなぁ… 小手先に走りすぎるのもよくないのかもしれないと桑田さんの強い麻雀を見て思いました」
と語った。
なんだろう。
桑田は28歳であり、麻雀界ではド新人であり、ベテランとも言える3人はとても悔しいはずである。
それでも言い訳や恨み節の1つあげず「桑田プロ」「桑田さん」と呼び、勝者を心から称えているのが素晴らしい。
この3人だけではない。
団体問わず、多くの麻雀プロやファンたちによる「桑田さん強かった! おめでとう!」という声が鳴り止まなかった。
麻雀という理不尽の塊のようなゲームなのに… いや、理不尽の塊のようなゲームだからこそ、負けたときに相手をしっかり称えることで、至高のゲームに昇華していく。