”飛翔”という言葉が一番ふさわしいのではないだろうか。
近代麻雀買い占めから端を発したといっても過言ではないこの大会。原のために用意された舞台で彼女は実力を発揮しきり、とうとうここまでたどり着いた。
「シンプルに、前へ」
東場の原は力強い押しを見せていくも、小宮が一歩先を行く形に。
そして【東4局】、小宮からこの半荘を決定しかねない超勝負手親リーチが飛んでくる。
これがリーチ時点で山に6枚。瞬間、多くの人間が小宮の勝ちを疑わなかったように思う。
原もイーシャンテンになるが、ここで選択。
まっすぐ行くなら
の三筋プッシュ。
はほんのり関連牌が切られているとはいえ、こちらも三筋プッシュ。
正直どちらも厳しく見える。安藤・中田もベタ降りしているといった雰囲気ではないため、任せる手も一瞬頭をよぎったか。
愚形に放銃しにくいマンズターツを選択した。両面二つを残す激プッシュではなく、ふんわりと形を残して押し返す選択。とはいえ……
やはり一枚切れのカン
はネック。
それでもここで、この舞台で勝つためには何をするべきか、最初から彼女は知っていた。
山に一枚。それも裏ドラ表示牌に眠っており、ダマテンなら決して和了ることのできなかった手牌。
「黙っていたら勝てない」
それはまるで買い占めをするに至った原の覚悟そのもののような、血のにじむ5200。小宮の独走に待ったをかける、完璧な和了り。
それでも目の前に立ちふさがる小宮の壁は高い。最強戦三度目の出場が、彼女の血となり肉となっている。
小宮はこの半荘、一度も攻め手を緩めることはなかった。【南2局】、ライバル原の親番をアンカン含めた強気のリーチ、1300・2600で落とすと……
次局も躱すだけでなく、手牌に恵まれた5200の加点で原の跳満条件を消す。
築き上げた点棒の壁。オーラス、一局勝負での倍満ツモ条件を突きつける。
受けて立った原の、人生を決めかねない1局。
原にここで選択が訪れる。瞬間見える倍満ルートはおよそ3つ。
①リーチツモ七対子ドラドラ裏裏
②リーチツモ三暗刻ドラ裏3
③リーチツモチンイツ・リーチツモホンイツドラ+2飜
ツモった時に倍満確定ルートが一番多い、染め手に舵を切った。
この時の原の選択の理由、心境は本人しか知る由もない。
きっとだが、原は自分の中で後悔が残る選択をしたくなかったのではないか。
そういう人間でなければ、アンケート用紙は投票期限二日前にまとめて送っていただろう。
原の選択に神が応えるように山に一枚のこの聴牌までたどり着く。
祈るように持ってきた、最後の1牌。原が小宮に向けて放った、ありったけの一突きは……
本当に、本当にわずか半歩届かず。
見た目の点差以上に小宮を追い詰め続けた原。
「この舞台にまた戻ってこれるとは思えないんですけど、戻ってこれるまで挑戦し続けて、勝てるまでチャレンジする」
ここまでの原を見続けた人ならばわかるだろう、彼女がまた戻ってこられないわけがないと。彼女自ら切り開いた物語はここで終わりではなく、ここからまた始まっていくのだから。
原えりか 2位
そしてマンガンを皮切りに、誰よりも攻め続け、和了り倒して最初のファイナルの切符を手にした小宮。その隙無く卒なくの打ち回しは再びファイナルでお目にかかれることだろう。
小宮プロ、おめでとうございます！！
次回は3/31㈰、こちらのメンバーにてお届けする。こちらもお見逃しなく！
日本プロ麻雀連盟所属・35期後期生。麻雀と着物と民俗学が大好きなプロ雀士。
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