終盤の13巡目。赤を引き入れてテンパイ……!
「頼む!」
この時、待ちは1枚しか残っていなかった。
けれど、あれだけ厳しい展開に見舞われた後なのだ。少しくらい幸運なことがあったって良いじゃないか。
ままならない配牌からゆっくりと育てた、因幡の復活の一手は。
3000、6000という大輪の花となって返ってきてくれた……!
地上復帰。まだ戦える。
これで、親番で加点すれば――
「嘘でしょ? やりすぎだってマジ……」
そんな因幡の、グラディウスの希望を打ち砕くような、2件リーチ。
先に解説しておくが。対2件リーチというのは、ほとんどの場合、オリが麻雀のセオリーだ。
それは、そもそも2人がリーチ状態から、自分が追い付いてアガリ、という可能性が低い事。
リーチ者2人ということは、横移動の確率が上がっており、自分が失点せずに局を終えられる可能性がある事。
以上の2点から、基本的にはオリが正解。そんなこと、因幡だって分かっている。
それでも、因幡は歯を食いしばってギリギリまで踏み込む。
失点が無いかもしれないというメリットは、今の因幡にとって意味をなさない。
どのみち、この親で点棒を増やせなければ、着順アップは厳しい。
このままの4着を許せるグラディウスの状況ではないのだ。
静かに因幡が押し続ける。好機を、ひたすらに待っている。
聞こえてくるのは、打牌の音と……因幡の微かな呼吸だけ。
テンパイが入った……!
単騎か、単騎。
因幡は、単騎に構えてのダマを選んだ。まだだ。本当の好機は、まだ。
今出るにロンと言えないのは苦しいが、この待ちに全てをかけるのは心もとない。
2件リーチという極限状態の中でも、因幡が模索する。アガれる道を。
絶好の赤引き。
が、は目に見えて残り2枚。
それでも、因幡はここでリーチを選んだ。
が3枚見えていてが使いにくいこと。
もう巡目も深くなっていて変化が望めないこと。
耐えて耐えて手に入れた好機。
結果は――
「よっしゃ……! きた!」
息も絶え絶えに、因幡から歓喜の声が漏れる。
トップ目長尾からの一発討ち取りは、12000の大きなアガリ!
これで2着争いに割って入り、更にはトップまで見えてきた!
南2局1本場
因幡の猛追により一時的に4着になってしまった朝陽に、良い手が入っていた。
はツモ切り。マンズの上はを既に切っており、フリテンになってしまう可能性を含んでいる。
であれば、とという優秀なくっつきで勝負。
特には、かを引ければ高目三色のテンパイだ。
そうして引いてきたのは……。
タンヤオも消えて、待ちも悪くなる、くっつきとして嬉しいとはとても言えない牌だ。
「は悪くない。リーチドラ1曲げましょう! 」
基本に忠実。
数々の教えを受け、そして成長してきた朝陽は、このカンが悪くないこと。
そしてリーチドラ1は愚形でも基本的にリーチが有利な事を知っていた。
実際、このは全て山に残っていた。
多井からの追っかけリーチも入り、因幡が朝陽の当たり牌、を掴んで撤退。
先ほどとは状況が変わっている。
ここでオリても、まだ着順アップは狙えるのだ。冷静な判断。