大塚が3人目のテンパイ。
待ちのは場に3枚切られている。
自分の待ちが2人に勝ち得るのか?
時間を使って自問した大塚。
ストレートに追っかけリーチに踏み切るが、このが柴原に捕まった。
裏ドラは。
もしもここで出越のアガリ牌が先にあったなら、倍満のアガリが炸裂していたことになる。
目の前の失点は決して愉快ではなかろうが、柴原と大塚の自然な連携で出越の大物手を粉砕。
最強戦の舞台に幾度も登場している大塚の嗅覚はさすがと言える。
2度のチャンス手を不意にした出越。
しかし、自らのセールスポイントを「諦めの悪さ」と称したのは伊達ではなかった。
供託が3,000点乗った南1局2本場、2番手の大塚から5,200点を直撃。
さらに、南3局1本場。
出越の親を自らの加点で落とせば通過確率がグンと上がる柴橋が、勝負を決めに行ったカン待ちのリーチ。
待ちはドラ表示牌。いかにも苦しいが、ここに抗ったのが出越。
テンパイ。
はいずれも柴原の現物。
しかし、出越のテンパイ打牌は。柴原には通っていない。
は当然に切るとして、追いかける身としてはリーチをぶつけるべきか。それともヤミテンか。
しかし、ヤミテンにするにしても、このはいささか強くて目立つが。
出越は息を殺してを縦に置いた。
「柴原の現物待ちはヤミテンで拾えるかもしれないという可能性を鑑みてヤミテンにしたが、結果的に勝負づけを先送りするという一番ダメな選択だった。」
対局後の取材にこう答えた出越。
出越の声に痛恨の表情を浮かべる柴原。
反面、アガリ形を観て「リーチを打たれなくてよかった」と言う心境でもあっただろう。
出越は、事前の私の取材にこう答えていた。
「自分のやるべきことをやりたい。中途半端だけはしたくない。」
10年前に大病を患い、生死の境を彷徨った出越。
今際の際まで追い込まれた経験から、出越は自分に誓ったという。
「一度きりの人生。後悔を残したくないからやりたいことをやろう。」
と。
麻雀プロになると言うことは、その後悔を残さないということの一つだったようだ。
あの時、こうしていたらどうだったか。
人は誰でもそう思うことは少なくない。
あの時、リーチを打っていたら、この先の展開は大きく変わっていたかもしれない。
7,700なら、あるいは裏ドラが乗って12,000となっていたなら…。
この局面、ヤミテンでアガリを拾うこと自体は悪いことではないと思う。
むしろ、クレバーな選択と評価されるかもしれない。
が、この際どちらが良かったかと言う優劣については一旦横に置いておきたい。
いずれにせよ、出越は自らが回顧したように、卓に後悔を残した。
それは、結果的に柴原のリーチを咎められていたから… と言う結果から来る後悔ではない。
追いかける身であるという分をわきまえてさえいれば、身を捨てて勝負に打って出る選択肢もあったのに… と言う後悔だ。
最強戦の魔物は、そんな打ち手の心を見逃さない。
辛くも2番手に浮上した出越を待っていたのは、悲劇だった。