やがて、意を決した阿久津。
手をかけたのは…
勝負を決する
だった。
ここで注目していただきたいのが、二人の姿である。
勝ち上がりを決めて嬉しいはずなのに、それでも表情を変えない内川。
そして、何より阿久津の手元を見てほしい。
オーラス勝負の接戦に敗れた直後である。
昨年は行けたファイナルへの道が閉ざされた。
タイトルの重みを鑑みれば、狂いたくなるほど悔しいはずなのだ。
しかし、阿久津の手元には手牌が端正に伏せられていた。
侍が果たし合いの末に刀を納め、参りましたと手元に置いたような潔い姿に見えたのは私だけだろうか。
勝ってなお相手のことを思う内川と、プロの矜持として負けを受け入れた阿久津。
二人の関係に思いを馳せれば残酷な結末とも言えるのだが、実に美しい結末だった。
プロの矜持といえば。
観戦記者のわがままをお許しいただき、最後にこの場面を紹介したい。
南3局。
追いかける土田、落とせない親番の局である。
ドラの
をトイツにした内川が![]()
待ちで勝負のリーチを放った。
リーチの一発目、
と
を仕掛けている土田が自風の
を重ねた。
繰り返しになるが、土田は圧倒的なビハインドを抱えている親番。
重ねた
はドラ表示牌に1枚見えているだけ。
どうせオリたら負けなのだから… と、無筋の
をぶっ放しても良さそうな局面である。
しかし、土田の選択は
のツモ切り。
最強位の列に名を記す者として、切れないものは切らない。
でも、最後まで勝負を投げずに粘り強く戦う。
そんな土田らしさが見えた一打だったように思う。
「ロスの多い手順と言われていますから払拭したいものです。」
事前の取材にこう語った土田。
確かに直線的にテンパイを取らない手順は冗長だという声があるのは事実だろう。
しかし、それもひっくるめて土田にしか踏めない手順があるのもまた事実。
そして、ファンはそれが見たいのだ。
ファンの一人として、最強戦の「魔力」に魅入られた土田の捲土重来に期待したい。

北海道在住のアマチュア雀士。 7歳で父から麻雀を習い、土田浩翔プロ、喜多清貴プロを師と仰ぐ。 2020年北海道最強位。














